研究課題/領域番号 |
17K05045
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研究機関 | 一関工業高等専門学校 |
研究代表者 |
藤田 実樹 一関工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (60386729)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 酸化ガリウム / ドーピング / シリコン / スパッタリング / スズ / n型 |
研究実績の概要 |
H30年度は、引き続き、紫外線検出器に利用するZnO/Ga2O3構造に用いる低抵抗n型Ga2O3の実現を目指して研究を行った。H29年度では、Snをn型ドーパントとして用いたが、高抵抗のものしか得られなかった。Snがターゲットの中でSnO2となり、成膜したGa2O3にSnとして取り込まれておらず、ドーパントとして働いていないと考え、Siをn型ドーパントとして用いてGa2O3のn型化を試みた。 Siが1%(原子組成比)混入したGa2O3ターゲットを用いて実験を行った。Arガスをプラズマ化してスパッタガスとし、Al2O3基板上にGa2O3を約1um堆積した。 Snをドーパントとして用いた場合、堆積温度を高くするにつれてGa2O3はβ相に結晶化が進むが、Siの場合、堆積温度に依存せず、アモルファスになった。室温で作製すると黒色になり、バンドギャップエネルギー(Eg)はGa2O3のEgである4.9eVより低下したが、堆積温度を上げると透明になり、4.9eV付近に回復した。これらSiの入ったターゲットを用いて作製したサンプルはいずれの場合も高抵抗となった。Siがドーパントとして十分活性化していないためであると考え、アニールを行った。 室温で堆積したサンプルに対して、窒素雰囲気、800℃にて、10分アニールを行った。アニール前は黒色であったが、透明へと変化し、Egは4.9eV付近へと回復した。また、これまで作製したサンプルの中で最も抵抗率が低くなった。5時間アニールすると、透明へと変化し、Egも4.9eV付近へと回復するが、高抵抗となった。 上記から、アニール前では、Siがドナーとして機能しておらず、黒くなり、Egが低下し、高抵抗となるが短時間のアニールにより、Siが浅いドナーに変化する。一方アニール時間が長すぎると、SiがSiO2と変化し透明になり、高抵抗化が起き、Egも大きくなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では、平成29年度において、高抵抗のZnOと低抵抗のGa2O3の作製を完了し、平成30年度では、これらを利用してヘテロ接合の作製を完了し、平成31年度ではヘテロ接合を利用した紫外線検出器の作製に取り組む予定であった。 ところが、Ga2O3の低抵抗化が困難を極め、平成30年度に実現予定であったヘテロ接合どころか、平成29年度に実現を行う予定であった低抵抗Ga2O3の作製が実現できていない。そのため、遅れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
低抵抗Ga2O3の作製は、この研究課題の最も重要な事項であり、この作製なくしては、この課題の実現は考えられない。低抵抗のGa2O3の実現、さらには抵抗率制御を実現するべく、令和元年度も引き続き研究を進める。 平成30年度では、Siをn型ドーパントとして用いて、Ga2O3の低抵抗化を試みた。研究概要のところで詳しく述べたように、Siが1%(原子組成比)混入したGa2O3ターゲットを使用し、Arガスをプラズマ化してスパッタガスとし、Al2O3基板上にGa2O3を室温にて堆積したサンプルに対して、窒素雰囲気、800℃にて、10分アニールを行ったところ、これまで作製したサンプルの中で最も抵抗率が低いGa2O3が得られた。(導電率 : ~10-4 1/Ωcm)また、さらに同条件にて5時間アニールしたところ、高抵抗へと変化した。 アニール前では、Siがドナーとして機能しておらず、Ga2O3は黒くなり、Egが低下し、高抵抗となるが、短い時間のアニールにより、Siが浅いドナーへと変化する。その一方、アニール時間が長いと、SiがSiO2へと変化し、透明になり、高抵抗化が起き、Egも大きくなっているのではないかと考えた。 以上から、Siがドーパントとして有望である可能性があり、スパッタガス種や堆積温度等の条件を変化させてGa2O3の堆積実験、また、温度や雰囲気等の条件を変化させて、アニール実験を引き続き行い、さらに低抵抗なGa2O3の実現ならびに抵抗率の制御を目指して研究を行う。また、このターゲットでは、SiがGa2O3の中に過剰に混入されている可能性があるため、Siターゲットを単体で作製しておき、アンドープのGa2O3ターゲットをスパッタリングしながら、Siのターゲットを別にスパッタリングすることでGa2O3中に少量のSiを混入する試みを行うことを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、スパッタリング装置を構成している機器の故障が以下のように起こった。ターボ分子ポンプが故障し、これはこの課題を取り組む上でどうしても必要であるため新品を購入し、50万円弱使用した。また、スパッタ電源の制御装置が故障し、これもどうしても必要なため、新しいものの購入に10万円使用したが、スパッタ電源自身が故障していた場合、さらに数十万円の購入費用が発生したと思われる。また、質量分析装置が故障し、廃番となっている装置であるため修理が行えず、新品の購入を行うと100万円程度かかることから、他のどうしても必要な物品や消耗品の購入とのバランスを考慮して購入を見送った。 現有のスパッタリング装置は購入より20年以上たっており、上記のように突発的に故障による修理や廃番機器となっているため、修理ができず、新品の購入が必要になってくる。その場合は、修理費や購入費が上記の例のようにかなり大きくなる可能性があり、かなり大きな額を次年度に繰り越した。 加えて、当初の計画通りに研究が進まず、消耗品費の支出が計画より少なかったことと、成果が思うように得られなかったため、学会発表を行うことができず旅費を必要としなかったことも次年度使用額が生じた理由として挙げられる。上記の理由から、突発的な装置修理費および購入費と、どうしても必要な消耗品、旅費等とのバランスを考慮して、次年度使用額分を使用予定である。
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