研究実績の概要 |
本研究は、Ag-In-Yb準結晶5回表面上に形成されるPb, Biなどによる単元素準結晶超薄膜の原子構造、および電子状態を密度汎関数法に基づく第一原理計算によって調べたものである。これまでの研究により、Pb, Biは基板の原子サイトの一部を占有することで基板の構造を模した数原子層からなる単元素準結晶超薄膜を形成するものと考えられているが、PbとBiでは異なる成長過程が観測されていることから、吸着構造の詳細な検討が必要である。以前に報告していたPbに続き、Biについても走査型電子顕微鏡(STM)実験によって指摘されていた原子サイトがエネルギー的に安定であることを確認した。また、Tersoff-Hamann法によって計算したSTM像と実験のSTM像の比較から、PbとBiのSTM像の違いは電子状態の違いによるものではなく、STMでは観測されない吸着原子層が関与した原子構造の差異によるものであることを指摘した。このような、「STMで観測されない原子層」の存在は本研究の主要テーマの1つであり、これによってPbとBiの吸着構造の違いが説明できたことは意味のある成果であると考える。もう1つの主要テーマである「Pb, Biの吸着構造の完全な理解」には至らなかったが、研究が計画通りに進まなかった場合の対策として予定していた非周期系表面の計算誤差に関する調査を実施した。Sb, Inの吸着構造に関する計算も実施した。 また基板を構成する各原子(Ag, In, Yb)とPb, Biの原子間ポテンシャルの解析から、Ag-In-Yb準結晶の構造において、Ybの二十面体が特別な役割を果たしている可能性が浮上した。これに関連して、第一原理計算によりAg-In-YbおよびAu-Al-Tb近似結晶表面の構造緩和計算を行い、現在、実験と比較を行っている。
|