これまでCu(111)表面上にドナー性分子とアクセプター性分子を積層させることで、分子ダイオード作成を目指していた。このとき、ドナー成分としてヘキサベンゾコロネン誘導体、アクセプタ性分子としてTCNQを用いており、Cu(111)表面上にドナー性のヘキサベンゾコロネン誘導体を自己組織化配列させ、その上にアクセプター性のTCNQを低温で蒸着することでヘキサベンゾコロネンーTCNQ積層構造を実現した。77Kにおいて走査型トンネル顕微鏡(STM)のトンネル分光を用いることで、ダイオード的な電流ー電圧特性を得ることができたが、Cu表面からアクセプター性のTCNQに電子移動が起きていることが、そのSTM像のバイアス依存性とab initio分子軌道計算から明らかになった。そこで、基板をCu(111)からAgを終端したSi(111)に変えることで、その変化を明らかにした。その結果、Cu表面上のような電子移動は見られなかったが、ダイオード特性も見られなかった。さらにそれらの特徴は、p型のSi(111)、n型のSi(111)の両方で見られ、基板の仕事関数には大きく依存しないことが分かった。さらには、Ag原子で終端したSi(111)表面上に自己組織化配列したヘキサコロネン誘導体を詳しくSTM観察したところ、2種類の吸着構造が存在するとともに、分子の中央部分が点滅する現象が77Kの低温で見られ、温度依存性があることが分かった。詳しく調べることで、基板表面の微細な構造変化に相関していることが明らかになった。
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