研究実績の概要 |
本研究では、単層で新奇物性を示すため新たな電子材料として期待されている遷移金属カルコゲナイド(二硫化モリブデン)のエッチングを、数eV/atom程度の超低エネルギーかつ超高密度の照射が可能であるガスクラスターイオンビーム(GCIB)を用いて行う。GCIBは従来のイオンビームよりも低損傷・低温で表面反応を促進することが可能であることから、MoS2膜の原子層エッチングが期待出来る。本研究では、MoS2原子の酸化状態や損傷を解明して、ガスクラスターイオンビームによるMoS2の原子層エッチング条件を探索し、大面積・単層MoS2膜の実現を目指した。 令和元年は、機械剥離法や溶媒からの抽出によって得られた多層MoS2試料に、Ar, O2などの各種ガスクラスターイオンビームを様々な条件で照射し、エッチング後のMoS2表面状態を真空一貫のX線光電子分光により評価した。MoのXPSスペクトルから,酸素クラスターイオンビームを照射することにより,照射前のMoS2から生じる229および233eVのピークがそれぞれ233及び237eV付近にシフトし,MoOxが表面に形成されていることが分かった。MoOxは揮発性が高いためこれらが除去されることによりMoS2のエッチングが促進する。酸素プラズマ照射では200~400oC程度加熱することによりMoOxが得られるが,酸素クラスターイオン照射では室温でMoOx層の形成が可能である。また,Arクラスターイオン照射によっても,極薄MoOx層が形成されていることが分かり,吸着した残留水分とMoが反応したためと考えられる。このように,ガスクラスターイオンの高密度エネルギー付与により,基板温度が室温であっても効率的にMoS2を酸化することができ,MoOx層を除去することによりエッチングが進む。
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