研究課題/領域番号 |
17K05062
|
研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
荒川 一郎 学習院大学, 理学部, 教授 (30125976)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 物理吸着 / 吸着等温線 / 平均滞在時間 / 極高真空 / クライオポンプ |
研究実績の概要 |
1. 極高真空用四重極質量分析計の製作と設置:市販の超高真空用四重極質量分析を購入し,そのイオン化室部分を気体放出の少ない銅ベリリウム合金製のものと換装し,極高真空仕様とした.現存の極高真空装置に組み込み動作試験を行い,重水素D_2に対する感度を,ATゲージ(軸対称透過型電離真空計)を基準として較正した. 2. 重水素の吸着等温線の測定:D_2/Cu吸着系の平衡状態から吸着等温線 σ=σ(p)|T=const を測定した.温度 T=4.0, 5.0, 6.0, 7.0K,圧力範囲 p=10^(-10)~10^(-6)Pa の範囲で測定を行い,これまでにH_2で報告されている異常な温度依存性,すなわち p∝exp(-E/kT) に従わないこと,をD_2の系でも確認した.この結果は,異常温度依存性の原因の一つとして従来考えられていた,超高真空装置の容器壁から放出されるH_2のために,真の静的平衡条件が成り立っておらず,それらのH_2を排気している動的平衡状態を測定しているため,という解釈だけでは説明できないことを示す結果である. 3. 重水素の平均滞在時間の測定:D_2/Cu 吸着系の過渡状態から平均滞在時間 τ を測定した.温度 T=5.0K で被覆率が1に近いところで, τ=900sec という値を得,ここから吸着エネルギ E=1.52kJ/mol という妥当な値を導いた.これを基に,T=4.0K での平均滞在時間を計算すると,τ=9x10^6sec となる.これは現実的に T=4.0K における吸着平衡状態を達成するのはほぼ不可能ということを意味し,前述の異常な温度依存性が観測される要因の一つと考えられる. これらの結果は,2018年6月にジュネーブで開催される欧州真空会議(EVC-15)で発表する.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
製作した極高真空仕様の質量分析計は順調に動作し,極高真空を維持しつつ,重水素分圧の定量的測定を始めることができた.また,D_2の吸着等温線,平均滞在時間の測定もほぼ予定通り進んでいる. 現状での問題点は二つある.第一は,H_2の測定では,基板表面に吸着している水,炭化水素系不純物からの信号が背景ノイズとなっており,D_2測定に比べて,低被覆率での測定が困難なこと.第二は,クライオスタット内に取り付けたシリコン温度計の動作が不安定なことである.実験結果の質を向上するためにはこれらの改善・解決が必要である.
|
今後の研究の推進方策 |
1. 試料基板と温度計の交換:より水素含有量の少ない高純度無酸素銅を素材として,試料基板を作り替え交換する.同時に取り付けてあるシリコン温度計も交換する. 2. 重水素の測定の系統的・網羅的測定:吸着等温線と平均滞在時間の両者について,すでに測定している T=4~7Kの領域の再現性の確認と,より高温(T=10K 程度まで)の領域での測定を行う. 3. 水素の測定:高純度無酸素銅基板を用いたときの背景雑音の低減を確認した上で,水素についてあらためて吸着等温線と平均滞在時間の測定を系統的に行い,重水素のデータとの比較・検討を行う. 4. ヘリウムの測定:ヘリウムに対する測定の感触を今年度中に掴みたい.系統的測定は次年度になると予想している.
|
次年度使用額が生じた理由 |
質量分析計の価格が予想より若干安くなったため,余剰が生じた.次年度の物品費予算と合わせて,クライオスタットの改修に必要な,ガスケット等の購入に充てる.旅費は2018年6月の15th European Vacuum Conference (Geneve) での発表のための旅費に充当する.
|