水素、重水素の吸着現象を極高真空領域、低温面温度3-10 K の範囲で測定することをめざし、4 K冷凍機を組み込んだ極高真空実験装置を開発した。耐熱温度の低い冷凍機と測定室との間に隔壁を設け、測定室のみに200℃×6時間の加熱脱ガスを施すことにより、測定室の到達真空は1×10^(-10) Pa に達した。低温面に吸着した水素の密度は電子励起脱離法により測定した。 これまでH_2で行っていた実験では、物理吸着したH_2以外の、水、炭化水素系の不純物、金属銅中に含まれる水素に起因すると思われる背景雑音が、低圧、低被覆率における計測の障害になっていた。試料気体に重水素D_2を用いることにより、H^+イオンの雑音からD^+イオンを分離することができた。 銅表面上のD_2の吸着等温線を圧力10^(-9) Paの低圧まで明らかにしたのは知る限りこの研究が初めてであり、被覆率が0.1より小さい領域で、吸着密度が平衡圧力にほぼ比例することを実験的に初めて明らかにした。また温度4.0~7.0 Kの等温線の温度依存性についても、すでに報告されている圧力10^(-7) Pa付近での異常温度依存性が、すなわち平衡圧力が温度に依らないように見えることが、10^(-9)~10^(-7) Paの広い範囲で同様に現れることを確認した。 過渡状態の測定から直接に吸着の平均滞在時間を求める方法により、水素の二次元凝縮近傍での振る舞いを明らかにできそうな手がかりを得た。二次元凝縮の前後で曲線は単一の時定数で表される指数関数曲線には乗らない。吸着密度に依存して、あるいは凝縮現象の発生により、平均滞在時間τが変化していると考えられるが、その原因はまだ明らかにできていない。 さらに既存の赤外吸収分光装置により低温面に吸着したH_2,あるいは凝縮層中に埋め込まれたH_2と他の分子との相互作用の測定を行った.
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