研究課題/領域番号 |
17K05063
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
明石 孝也 法政大学, 生命科学部, 教授 (20312647)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 強誘電体 / 二チタン酸バリウム / 薄膜 / 高温 |
研究実績の概要 |
初年度の計画では、電場中においても容易に沈降しない高温強誘電体BaTi2O5粒子の懸濁液を調整することに注力するとしていた。 まず、炭酸バリウムと酸化チタンの混合粉末から、溶解・凝固法および遊星ボールミル粉砕による準安定相のBaTi2O5の合成を試みた。従来の浮遊帯域溶融法により溶解・凝固を行った場合とは異なり、電気炉による溶解・凝固を行っても準安定相BaTi2O5の単相は得られなかった。しかし、炭酸バリウムとルチル型酸化チタンの混合粉末に遊星ボールミル粉砕を行った後に、1150℃で固相反応を行うことにより、当初35%であったBaTi2O5の生成率を90%にまで向上させ、単相に近い準安定相BaTi2O5の合成に成功した。なお、この試料での不純物相はBaTiO3であった。このようにして得たBaTi2O5を遊星ボールミル粉砕し、懸濁粒子として用いた。 次に、分散粒子としてBaTi2O5粒子を、安定化剤としてアセチルアセトンを用いて、超音波分散によりBaTi2O5粒子を懸濁させたBaTiO3前駆体溶液を調整した。このBaTi2O5を懸濁した前駆体溶液は、無電場中においてはBaTi2O5粒子の沈降は十分に遅く、スピンコーティングを行う上での十分な分散性を有していた。電場中でのBaTi2O5懸濁液の沈降に関する検討は、次年度以降の課題とした。 さらに、BaTi2O5とBaTiO3の割合を物質量比で2:1~1:2として前駆体溶液を調整し、Ti基板上に1回~5回のスピンコートを行った。BaTi2O5とBaTiO3の割合が物質量比で2:1となるように前駆体溶液を調整し、Ti基板に2回のスピンコートを行った場合に、最も亀裂の少ないBaTi2O5粒子を分散させたBaTiO3薄膜の作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BaTiO3を不純物として含む純度90%の準安定BaTi2O5粒子の合成に成功し、このBaTi2O5粒子の懸濁液をBaTiO3前駆体溶液からの薄膜作製に成功している。また、次年度以降に計画されている誘電特性の評価や電場中ゾル-ゲル製膜に関する環境整備も行っている。しかし、作製した薄膜には亀裂が存在していたため、「当初の計画以上の進展」とはせずに「おおむね順調な進展」との慎重な自己評価を行った。なお、薄膜作製過程における亀裂発生の抑制は重要な課題ではあるが、前駆体溶液中へのBaTi2O5粉末添加量の制御やコーティング回数の最適化、乾燥方法の変更など、亀裂抑制の課題解決に向けての方向性は見えている。また、合成した準安定BaTi2O5粒子には不純物としてBaTiO3が含まれているが、作製する薄膜がBaTi2O5粒子を分散させたBaTiO3強誘電体薄膜であるため、現時点においては大きな支障がないものと見ている。研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、電場中ゾル-ゲル製膜によって、BaTi2O5系粒子を配向分散したBaTiO3系薄膜を作製し、この薄膜の構造と誘電特性の評価を行う。また、X線回折によるロットゲーリングファクターおよび誘電特性の温度依存性によって、BaTiO3マトリックス薄膜中におけるBaTi2O5分散粒子の配向度を総合的に評価する。 なお、研究が当初計画どおりに進まない時の対応として、配向分散と沈降のトレードオフを克服のためのパルス電界の採用を考慮していた。しかし、本年度中に別の材料系で行った電気泳動堆積法に関する研究により、装置設計を変えれば電場中での沈降を利用して製膜を促進できるという知見も得ている。よって、配向分散と沈降のトレードオフを克服する必要性がない可能性も念頭に置いている。 また、2年目の目標としては、BaTi2O5を配向分散させたBaTiO3薄膜における亀裂発生を抑制すること、作製したBaTi2O5粒子の配向度を評価することにある。
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