研究課題/領域番号 |
17K05065
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
鶴岡 徹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (20271992)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 可変容量素子 / ナノイオニクス / 酸化物 |
研究実績の概要 |
金属/酸化物界面の酸化還元化学反応とナノスケールのイオン移動を利用した新しい可変容量素子を開発するために,平成29年度は高イオン伝導性酸化物薄膜材料の探索を行った。容量変化を実現するためには,室温で高いイオン伝導度を発現する薄膜材料が必要である。まず,高誘電体である酸化タンタルにリチウムをドープした膜をスパッタ法で作製することを試みた。しかし,作製した膜のXPS測定の結果から,リチウムを20%含有した酸化タンタルターゲットを用いてもスパッタ膜にはほとんどリチウムがドープできないことが分かった。これはスパッタプロセスにおいて,軽いリチウムがターゲット表面から脱離してしまうからと考えられる。 そこで,全固体電池の材料として研究されているリン酸リチウムに窒素をドープしたスパッタ膜の作製を試みた。作製した膜のイオン伝導度は交流インピーダンス法により評価した。アルゴン雰囲気中でスパッタしたリン酸リチウム膜は約40%のリチウムを含有するが,室温で10^-9 S/cm程度のイオン伝導しか示さない。しかし,窒素雰囲気中でスパッタしたリン酸リチウム膜には8%程度の窒素がドープされ,イオン伝導度が3桁増大することを見いだした。リン2p軌道のXPSスペクトルには窒素-リン結合に起因したピークが明瞭に観測され,ドープされた窒素は主に酸素を置換し,リチウム-酸素結合を切断してリチウムイオンの伝導性を増大させていると考えられる。これにより,可変容量変化機能に適用可能な最初の薄膜材料を見いだすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定したリチウムドープ酸化タンタル膜では様々な条件で成膜を試みたが,リチウムドープが非常に難しかったため,材料系の変更を行った。その結果,窒素ドープしたリン酸リチウムのスパッタ膜で,室温において高いイオン伝導度を確認した。薄膜材料の探索に時間を要したため,素子の作製と容量変化特性の測定は当初の計画よりもやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,窒素ドープしたリン酸リチウムを用いた容量素子を作製し,電気特性や電極界面の酸化還元反応,イオン伝導度を,電流-電圧,サイクリックボルタンメトリ,交流インピーダンス法などにより詳細に調べ,成膜条件と素子構造の最適化を行う。その上で,素子容量の周波数依存性を調べ,容量変化の発現機構の解明と容量制御のためのパラメータを検討する。 平行して,他の酸化物薄膜材料の可能性も引き続き探る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
薄膜材料の探索に時間を要したため,素子作製と評価に必要な予算執行分を次年度に繰り越すこととなった。この繰り越した予算は,素子作製に必要なホルダやメタルマスク,および計測用プローバの改良に使用する予定である。
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