研究課題/領域番号 |
17K05066
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
長岡 克己 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクト二クス研究拠点, 主任研究員 (80370302)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナノギャップ構造 / STM / 単分子架橋 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、単分子素子における、分子と電極の接合状態、接合分子の電子状態、そして、それらから予想される伝導特性の相関関係を明らかにすることである。これは単分子素子の研究における本質的な課題であるが、まだ、分子と電極の接合状態、接合分子の電子状態を実際に測定した報告例がない。そのため、詳細はよくわかっていない。 そこで、本研究では、H29年度に、表面上にナノギャップ構造を再現性良く構築するための技術開発を行い、作製条件の最適化を行った。その結果、200x200nm2の領域で、十数個のナノギャップ構造を確認することに成功した。そして、作製したナノギャップ構造、及び、その周辺に関して、詳細なSTM観察を行った。その結果、ナノギャップを構成する電極上、及び、その電極周辺の絶縁性下地の両方において、清浄な原子分解能像が得られた。そして、そのギャップ端まで原子オーダーで平坦であることを確認した。これらのことは、接合状態がきちんと既定された単分子架橋を構築する上で、必要不可欠な要件であり、この事実が確認できた意義は大きい。 また、予め、有用な素子機能を出現させるような有望な分子種や構造を検討・探索する目的で、単分子架橋に関する理論計算を行った。その際、系の非対称性な電子状態が機能創出の鍵になると考え、4個の炭素六員環がY字状に配列した、トリフェニレンの単分子架橋を仮定した。そして、その伝導特性の計算を行った結果、この系に関しては、架橋分子の両端で大きく接合状態を変化させても、分子内に非対称な電子状態、特に、HOMO軌道とLUMO軌道を空間的に分離させるほどの影響は出ないことが示された。これは、分子のサイズが小さすぎることに起因すると考え、今後は、サイズがもう少し大きな分子を使用すべきという指針が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H29年度は、表面上にナノギャップ構造を再現性良く構築するための技術開発を行い、作製条件の最適化を行った。そして、ギャップ端まで原子オーダーで平坦であることを確認した。これらのことは、接合状態がきちんと既定された単分子架橋を構築する上で、必要不可欠な要件であり、その事実が確認できた意義は大きい。 しかしながら、現在までのところ、まだ、単分子架橋の構築には成功しておらず、したがって、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までのところ、まだ、単分子架橋の構築には成功していない。この原因として、自作の蒸着源だったために、その動作が不安定であったことと、さらに、実際に使用する前の準備・性能評価が不十分であったことを考えた。従って、H30年度は、まず、単分子架橋の構築のために、蒸着源、及びその周辺機構の改良を行い、さらに、蒸着源の評価システムの立ち上げも行う。これらによって、実験効率が飛躍的に向上すると考えている。 さらに、本研究課題の提案時には研究計画に包含していなかったが、やはり、「電極との接合状態が既定された単分子架橋の電気伝導特性を直接的に計測する」ことは極めて重要であり、単分子素子の研究の本質であるという考えに至った。そして、この測定を実現するために、ナノギャップ構造作成時に蒸着マスクを用いて、形成されるウエッジ構造を利用するアイデアを考えた。そこで、H30年度は、このアイデアを実行し、接合状態が既定された単分子架橋の電気伝導特性を直接的に計測することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末近くに、真空ゲージコントローラが故障し、急遽、中古の同等品を購入した。しかしながら、その中古品も故障しており、返品したため、その相当額が持ち越しとなった。 当該助成金は、H30年度助成金と合わせて、真空部品の購入に充当する。
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