本研究の目的は、単分子素子における、分子と電極の接合状態、接合分子の電子状態、そして、それらから予想される伝導特性の相関関係を明らかにすることである。これは単分子素子の研究における本質的な課題であるが、まだ、分子と電極の接合状態、接合分子の電子状態を実際に測定した報告例がない。しかしながら、単分子素子に有用な素子機能を出現させるためには、系の非対称性が必須であると考えた。 そこで、まず、すでに作製法を確立したBiのナノギャップ電極間に非対称分子を架橋する方針で研究を行った。そして、4個の炭素六員環がY字状に配列した、トリフェニレンの単分子架橋を仮定し、その伝導特性の計算を行った。その結果、この系に関しては、架橋分子の両端で大きく接合状態を変化させても、分子内に非対称な電子状態、特に、HOMO軌道とLUMO軌道を空間的に分離させるほどの影響は出ないことが示された。 次に、「系の非対称性」を実現するために、異種材料で電極を作ることを検討した。そして、その候補として、窒素添加LaB6薄膜を検討した。その結果、本材料は、低い仕事関数(2.35eV)と、高い化学的安定性(大気暴露後でも、500℃で清浄化)、高い形状の自由度(RFスパッタにより製膜可)を有することがわかった。現在、当該薄膜の構造解析、そして、化学的安定性の起源解明を行っている。 今後、窒素添加LaB6の低被覆薄膜(<1ML)を準備し、そこに、Biアイランドを成長させ、異種電極間に単分子架橋を作製したいと考えている。
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