研究実績の概要 |
有機薄膜太陽電池などの有機デバイスは、薄い、軽い、柔軟、製造コストが低いといった特性をもつため、実用化が期待されている。過去の研究で、有機分子と電極の間にバソクプロイン(Bathocuproine, BCP)など窒素を含む芳香族有機分子を緩衝層として挿入すると有機デバイスの特性が向上することが報告されている[P. Peuman et al., Appl. Phys. Lett. 76, 2650 (2000)]。しかしデバイスの特性が向上する理由はほとんどわかっていない。2018年度までの研究で、フラーレン(C60)とAg基板の間に緩衝層としてBCPを挿入した場合の電子的相互作用を、放射光を用いたcore-hole clock分光等を用いて研究して、BCPのLUMO + n(n = 3と推測)準位からAg基板への電荷移動時間を2.5 fsと見積り、この短い電荷移動時間がデバイスの特性向上に寄与している可能性を示した。また、金属電極としては超高真空下での昇華法により作製した無酸素Pd/Tiが有望であることを見出した。無酸素Pd/Tiは真空中にて150℃で12時間加熱したあと室温に戻すとH2とCO を排気する、大気導入とベーキングを繰り返しても排気速度が低下しない、H2、H2O、CH4、COなどの脱ガスを低減できるといった特長を持つ。このため、無酸素Pd/Tiの上にBCPを成膜すれば、BCP/金属電極の不純物を低減でき、BCPから電極への電荷移動時間をさらに短縮できると期待される。2019年度は、無酸素Pd/Tiを利用して新しい非蒸発型ゲッターポンプを開発した。本ポンプを150℃で12時間加熱して室温に戻したときのH2、CO対する初期排気速度は、それぞれ2350、1560 L/s であった。2020年度には本ポンプの排気速度を改善するとともに量産技術を確立した。
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