アルカリ金属原子のスピン偏極を用いた光ポンピング原子磁気センサは、室温でSQUIDを超える感度が期待できるため、ベットサイドでも心臓や脳神経由来の微小磁場をモニタリングできる可能性がある。しかし、偏極スピンは原子がセル内壁に衝突すると緩和されてしまう問題点があった。そこで、もし原子セル内壁にスピン緩和防止の高性能コーティングを施すことができれば、偏極緩和を抑制できることになる。本課題では、アルカリ金属原子の電子スピンとコーティング内原子の核スピンとの双極子-双極子相互作用の効果を最小限に抑えるため、磁気モーメントの小さい重水素核に注目し、申請者が独自に開発した逐次的表面化学反応による原子層堆積法を発展させて重水素化したポリマー薄膜の分子層堆積法を世界で初めて開発し、更には表面界面のダングリングボンドのOD基終端や重水素化したポリマー薄膜の膜厚を精密制御する事でスピン偏極の緩和を抑制し、ついには光ポンピング原子磁気センサの感度を向上させることを目標に研究が行われた。 昨年度はエチレングリコール(EG)とTMAとの組み合わせから、有機無機ハイブリッドポリマー薄膜の分子層堆積を実現した。本年度はEGの代わりに全ての水素が重水素に置換されたEG-d6を用いて重水素化した、有機無機ハイブリッドポリマー膜コーティングを実現した。ルビジウム原子セルの内壁に同コーティングを施し、分光エリプソメーターにより評価したところ、コーティング薄膜が形成できていることが判明した。 次に外部共振器型半導体レーザーを用いて、レーザー光は87RbのD2 線のF=2からF‘=3の共鳴周波数に合うように波長780.2435 nmに周波数安定化を施し、非線形磁気光学回転の精密測定システムを開発した。そして種々の重水素化ポリマー膜コーティングに対して同システムによるスピン緩和時間の計測を実現した。
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