研究課題/領域番号 |
17K05085
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
吉田 実 近畿大学, 理工学部, 教授 (50388493)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ファイバレーザー / フェムト秒パルス / ファイバ中の光位相制御 / コヒーレント加算 / コヒーレント共振器結合 / 光ファイバ |
研究実績の概要 |
ファイバ内を伝搬するパルスのエネルギーを高めるたの研究を進めている。これらは何れも光パルスを複数のファイバに分割し、エネルギーを低下させた状態において増幅を行い、位相を揃えて単一のファイバあるいは空間に合波することで最終的な高エネルギー化を目指している。平成30年度は、主に二つの開発を行った。(1)ファイバレーザーの空間結合。(2)各ファイバの位相制御の自動化。これらの2点を進めた。 (1)ファイバレーザーの空間結合:一般的に行われているコヒーレント共振器結合光学系は、分岐デバイスを通じて枝分かれしたファイバの先端に高反射率なミラーを取り付け、単一のファイバに合波されている端部に低反射なミラーを取り付け、これらミラーの間の枝分かれしたファイバに増幅用光ファイバを挿入することで、単一のファイバから合波された出力を得る構成を取る。しかしながらこの方法ではファイバを構成するガラスの非線形限界を超えることはできないので、高反射側と低反射側を入れ替え、分岐したファイバ端から位相の揃った光を空間に取り出して、空間で合波するシステムの開発を行い空間分布の評価を行った。現段階では7つのコアを直径90μmの狭い領域に配したマルチコアファイバを利用し、複雑な制御を行うこと無く空間光の位相を揃えることが可能であると確認できた。最終的には偏波面の制御も必要となる。 (2)位相制御の自動化:ファイバから得られた光出力の非合波ポートの出力をモニタとすることにより、出力を損なうこと無く出力の逆関数に相当する信号を取り出し、これを基に出力状態を一定に保つために必要なファイバ長の制御、すなわち位相制御を行うための制御システムを試作した。 その他の項目として、パルスのエネルギー制御のために、フェムト秒からピコ秒領域において連続したパルス幅可変が可能なファイバレーザーの開発にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ファイバの非線形性を応用することにより、全ファイバ型の極めて短い時間のパルスを発生させることが可能となっている。例えば、100フェムト秒の時間幅を持つパルスは、光の速度で30μmしか進むことができない時間幅に相当する。ファイバを利用することにより、同様の性能を有する空間光型のレーザーと比較して取り扱いが容易となったが、ファイバ内で光の通るコアの断面積が狭いため、ファイバを伝搬するパルスのエネルギーを高められず、加工などに適さないという課題があった。 最も重要な課題は、全ファイバ型で光波の位相を30nm程度の分解能で制御する技術の開発である。ファイバを用いた光の位相制御に関する他の研究ではピエゾ素子を用いてファイバを伸縮させる技術を用いるが、電気的な制御に高い電圧を用いること、ファイバに張力を印加するためにファイバの疲労破壊に起因する破断が発生し、ファイバレーザー装置に用いると火災などの原因となり危険であることなどからレーザー用光学系には不適切である。これらを解決するために、ファイバのガラスに直接金属を被覆し、これに電流を流すことによってファイバの温度を制御する技術を開発し、平成30年度は自動制御に必要となる制御の要素技術を開発した。 次に、ファイバの空間出力を空間光学系で合波可能とするために、7つのコアから位相の揃った光を出力する技術の開発を行った。この技術は、上記の位相制御すら行っておらず、ほぼ自動的に位相の一致した光波を取り出すことに成功した。 光のパルス幅を広げると単一パルスのエネルギーを高めることが可能であるが、フェムト秒領域では光学系により決定されるパルス幅から変更することが困難であった。この問題を可決するために、二つの共振器をコヒーレント共振器結合することによりパルス幅を最大で1ピコ秒程度まで可変可能な光学系を開発した。
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今後の研究の推進方策 |
ファイバを用いた高エネルギーパルスの発生装置の開発を継続的に進める。単一のパルスを、ファイバを分割することにより低エネルギーで増幅し、各パルスの位相を揃えることによって単一のファイバあるいは空間に合波可能とすることで、最終的なパルスの高エネルギー化を目標としている。 位相制御技術に関しては、現在進めている石英ガラスに金属を被覆したファイバに電流を流して30nm程度の分解能でファイバを伸縮させる技術をほぼ確立しているが、他の方法として液晶を利用した技術の開発を進める。ネマチック液晶を利用し、これを透過するパルス光に位相の変化を生じさせる事を想定しているが、ネマチック液晶の実効的な屈折率を制御する過程において光波の偏波面が変化してしまうため、これまで進めてきた光学系では光波の合波ができない。偏波面を自動的に補償可能とする技術の開発も同時に進める。 スケーリングの実証を進める。複数の増幅用光ファイバを用いて増幅した短パルスを合波することにより、例えば2分割後に増幅して合波した場合には、光部品の挿入損失などを補償した上で二倍の出力を得られることが目標である。パルスエネルギーを高めるために可能な範囲で多くの増幅用光ファイバを用いれば良いが、予算の都合などにより、最大で4本の光増幅用ファイバを用いて合波を行い、パルスエネルギーを高めるスケーリングの検証を行う。この検証を完了できれば、ファイバレーザーの特徴を利用し、ファイバの本数を増やすことによるエネルギー増加が実現可能であることを示せる。 また、研究成果の報告のために、国内のレーザー学会、電気学会などでの報告と共に、海外において、例えばミュンヘンで開催されるレーザーと光エレクトロニクスの国際会議であるCLEO-Europe、また、米国で開催されるレーザーの開発と加工を含めた応用分野の国際会議であるICALEOなどでの発表も計画する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入した光増幅用Erドープ光ファイバの価格が、124,500円から121,500円に価格改定されていたため、残額が3,000円発生しました。次年度において研究を進めるため、本研究に不可欠な光デバイスである光合波用カプラの購入費用に充て、有効に使用します。
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