本研究課題では、垂直磁気異方性を有する強磁性-貴金属複合膜に対して、鏡映対称性を持たない磁性ナノ構造体を周期的に配列させた「カイラル磁気ナノ格子」の構築、ならびに、バイオ計測への利用を目的としている。磁性ナノ構造体に関するこれまでの研究により、磁性ナノ粒子におけるプラズモン共鳴に起因した特異な光磁気物性の発現や、磁性積層膜におけるフォトニックバンドを利用した新たなバイオ計測手法の構築について報告してきた。今年度は特に、電子線描画装置を用いた微細加工技術を活用することで、2次元周期構造を有する磁性積層ナノ構造体の作製を試みた。複数の磁性層で構成された反強磁性結合を有する垂直磁化積層膜に対して、上部の磁性層のみに微細加工を施すことで、磁気特性の劣化を抑制することができる新たな磁気パターンの作製手法を構築した。光の波長に比べて十分に短い距離でのスピン配列制御を可能とする本手法は、光学的に疑似的な磁気パターンの形成を意味するものであり、非相反的光学活性を制御する新たな手法「疑似メタマテリアル」としての活用が期待できる。 研究期間全体を通じて実施した本研究により、本研究課題では、光磁気物性に係る新たな物理現象の発現や、カイラル分子であるグルコース等の光学活性物質を高精度に計測することが可能な新たな手法を提案することができた。投稿論文のEditor's Picks選出や国内学会での受賞に加え、バイオ計測に係る基本特許を取得することもできた。さらには、光学的に疑似的磁気パターンを構築する手法は、新たな学術領域として注目されているトポロジカルフォトニクスにおける実験基盤「プラットホーム」として、今後の活用が期待できる。以上、本研究課題の実施によって、学術・産業両面で価値の高い研究成果を見出すことができた。
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