研究課題/領域番号 |
17K05089
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
乙部 智仁 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 光量子科学研究部, 主幹研究員(定常) (60421442)
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研究分担者 |
小林 亮 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70560126)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 時間依存密度汎関数理論 / 分子動力学計算 / レーザー加工 |
研究実績の概要 |
時間依存密度汎関数法に基づいた実時間シミュレーションから誘電体中に生成される電子・空孔の温度を内部エネルギーと励起電子数を保存量として計算できるコードを作成した。電子の温度を計算することは本プロジェクトの目的である分子動力学との融合を実行するうえで重要なポイントである。上記プログラムをSiCに適応し、電子・空孔温度のレーザー強度依存性を明らかとした。電子空孔温度はレーザー強度と共に上昇するが、温度上昇と共に全系の有効質量も上昇しプラズマ振動数が低下する。有効質量の低下はレーザー光の効率的吸収の阻害要素となり、その影響は2パルス照射では特に顕著となる事が明らかとなった。 また研究から、レーザー励起後の電子温度は伝導電子と空孔に分けられ、それぞれ全く違う温度となっている事が分かった。これは既存のレーザー加工シミュレーションの一般的手法である二温度モデルが妥当では無いことをしめしている。 電子励起に伴う物性変化を解明するためにアト秒過渡吸収分光のための理論を構築した。当該理論から現在知られている光の偶数倍だけでなく、励起電子の非対称性から奇数倍の周期で光学特性が変調される事を明らかとした。また、Cos型バンド近似は定性的に実験を再現しない事を示し、多バンドの影響を考慮する必要があることも示した。 分子動力学法(MD)にレーザーによる電子励起と格子振動の相互作用を導入するための二温度モデル(TTM)法を実装し、レーザーアブレーションの空間並列型大規模MDプログラムを完成させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子動力学計算実行のためのプログラム作成を行い正常に動作していることを確認できた。完成したプログラムを用いて結晶シリコンのレーザーアブレーションMD計算を行い、パルス幅や強度などのレーザーのパラメータおよびレーザー・物質間相互作用パラメータと材料表面加工状態との関係について研究を進めている。 Maxwell方程式と時間依存密度汎関数理論を結合した多階層シミュレーションコード、SALMONにレーザー励起後の電子空孔温度分布を計算する機能を追加し、マクロな励起電子分布と電子温度分布の計算を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
密度汎関数理論に基づいた多階層シミュレーションで得られたシリコンの励起電子数及び電子温度分布をMD計算コードの初期値として与え、加工痕生成過程のシミュレーションを行う。 多階層シミュレーションから、電子温度は伝導電子と空孔で別の温度で表されることから、既存の二温度モデルでは不十分なことが判明している。MD計算の高度化のために電子・空孔・格子の3温度を考慮した確率方程式の構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
ノートパソコンを購入予定であったが、予定外の海外出張等が発生したため購入金額に対して残金が不足になった。繰越し金を含めた平成30年度予算で購入予定
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