研究課題/領域番号 |
17K05093
|
研究機関 | 公益財団法人九州先端科学技術研究所 |
研究代表者 |
藤原 隆 公益財団法人九州先端科学技術研究所, マテリアルズ・オープン・ラボ, 研究員 (50589455)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | フォトリフラクティブポリマー / 光異性化 / ジアリールエテン / アゾ分子 / 電子状態制御 / 光刺激 / 光電子分光法 |
研究実績の概要 |
本研究は、非侵襲生体イメージングで脚光をあびる光超音波診断を非接触で実現するための検出器となるフォトリフラクティブ(PR)ポリマーの高性能化を目指したものである。PR効果の発現原理に立ち返ると、素子性能を決定する屈折率変化と応答速度の間には原理的なトレードオフが存在する。このトレードオフを本質的に打破するブレークスルー技術として、光応答性トラップを導入した新原理に基づくPRポリマーを創製し原理実証をすることを目的とする。 PRポリマーでは、ホスト材料としてホール輸送性ポリマーが多用され、ポリマーのHOMOレベルが電荷輸送に深く関与する。従って、ホストポリマーのHOMOレベルに対して導入した光応答トラップのHOMOレベルが有効に作用することが必要となる。本研究では、光応答性トラップとして光に応じて分子構造が変化する光異性化材料を採用した。特に、光異性化を示すジアリールエテン系材料は、光照射に伴うHOMOレベルの変化が~0.9eVと大きくPRポリマーとして多用されるPTAA(HOMO~-5.3eV)、PVK(HOMO~-5.8eV)に対して有効に作用することが期待される。 本課題に対して、本年度はジアリールエテン系分子の単膜およびポリマー分散膜の作製手法を検討した。また、得られた単膜および分散膜に対して基礎特性(光学的・電子的)、および光刺激に対する特性変化を検討した。加えて、電気特性、およびPR特性を評価するための測定装置を整備した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はジアリールエテン系分子の単膜およびポリマー分散膜の作製手法を検討した。製膜方法には溶媒を用いた塗布法を採用し、良溶媒としてヘキサン、トルエン、クロロベンゼン、THF等、有機溶媒を用いた。また、分散膜を作製する際のホストポリマーには、光応答トラップの動作を確認するために絶縁材料であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)を用いた。適切な溶媒を選択することで良好な単膜および分散膜を得ることに成功した。 得られた単膜および分散膜に対して基礎特性(光学的・電子的)、および光刺激に対する特性変化を検討した。吸収スペクトルの変化から、本研究で用いたジアリールエテン分子は、UV光(350nm)及び可視光(540nm)によって分子構造が変化することがわかった。また、大気光電子分光装置(AC2)を用いたイオン化ポテンシャルの測定から、単膜においては、上記励起光に応じてHOMOレベルが変化する様子を観測した。一方で、分散膜については明確な変化は観察されていない。トラップとして導入するジアリールエテン濃度の最適化が必要であることを示唆している。 また、電気特性、およびPR特性を評価するための測定装置を整備した。標準素子を用いた測定から、暗・光電流の過渡応答、さらに素子の性能を決定する屈折率変化と応答速度が高精度に測定できることが分かった。本測定系において、光応答トラップを励起するための励起光を導入することが必要であるが次年度への課題として持ち越した。
|
今後の研究の推進方策 |
H29年度は、光異性化分子としてジアリールエテン系分子を検討し、分散膜の作製および外部光刺激によってHOMOレベルが変わることを理論的・実験的に検証した。H30年度は、実際にPRポリマーへ導入することで、基礎特性を評価してゆく。一方で、ジアリールエテン系材料の特徴として、結晶性であるため凝集しやすいこと、光刺激に応じて生じる構造変化が比較的安定であることが挙げられる。前者は、PRデバイスのSN比を低下させる光散乱の原因となり、後者は、高速応答の妨げとなることが予想される。さらに動作波長域がUV領域に限られる問題も生じる。これらの課題を解決し、さらに可視域での制御性を向上させるために、光応答性トラップとして相溶性がよく熱戻り反応が速いアゾ系分子の導入を検討する。ここで、PRポリマーの駆動波長(500~600nm)にあわせて新規分子を設計・合成する必要性が生じることが予想されるが、アゾ系PR材料の専門家と協力することで対応してゆく。加えて、H29年度の課題として残してきた電気的な基礎特性のその場評価手法を確立し、光応答性トラップと素子性能およびスイッチング特性について検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度予算において、装置および試薬を購入する際に、為替変動の影響により当初予定していた支出額に比して若干の余剰分が生じた。余剰分は、次年度において新たに合成するアゾ分子の試薬購入費として使用する予定である。
|