研究課題/領域番号 |
17K05096
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内田 儀一郎 大阪大学, 接合科学研究所, 准教授 (90422435)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | プラズマ医療 / 非平衡プラズマジェット / アミノ酸 / 活性酸素種 |
研究実績の概要 |
現在のがん治療において増殖能が高く,抗がん剤や放射線に強い抵抗性を示す,がん幹細胞の死滅は非常に困難であり,新たな治療法の探索が急務となっている.このような課題に対し,本研究では,プラズマ照射細胞培養液などのプラズマ処理溶液を投与することで,がん幹細胞の選択的死滅現象の発現を実現することを目標としている.本年度は細胞培養液の主成分であるアミノ酸とプラズマとの相互作用についての解析を行った.具体的には純水に7種類のアミノ酸を別途混合し,非平衡プラズマジェットをそれぞれの溶液に照射したところ,メチオニン,トリプトファン,アルギニンに関して,顕著な濃度の減少が観測された.そのメチオニン,トリプトファン,アルギニンの質量スペクトルを液体クロマトグラフ質量分析装置を用いて詳細に測定したところ,トリプトファンに関しては,トリプトファンに相当する質量数205のスペクトルがプラズマ照射により大きく減少し,質量数221と237に新たなピークが観測された.一方,メチオニンに関しては,メチオニンに相当する質量数150より低い質量数121と高い質量数166にそれぞれ新たなピークが観測された.また,アルギニンに関しては,アルギニンに相当する質量数175より低い質量数60から146の領域に新たなピークが多数観測された.このようにプラズマ照射により,特定のアミノ酸の酸化・分解反応が促進されることが明らかになった.また,プラズマ/液面接触照射と非接触照射で,メチオニンの質量スペクトルに大きな差異が観測され,プラズマ照射条件がアミノ酸の化学反応を制御できる重要なパラメータであることを見いだした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,プラズマ照射細胞培養液などのプラズマ処理溶液を投与することで,がん幹細胞の選択的死滅現象の発現を実現することを目標としている.本年度は細胞培養液の主成分であるアミノ酸とプラズマとの相互作用についての解析を行い,その結果,プラズマ照射により,メチオニンやトリプトファンなどの特定のアミノ酸の酸化・分解反応が促進されることが明らかになった.また,プラズマ照射条件がアミノ酸の化学反応を制御できる重要なパラメータであることを見いだした.
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今後の研究の推進方策 |
今年度はプラズマ照射により,特定のアミノ酸の酸化・分解反応が促進されることが明らかになった.来年度はこのアミノ酸の酸化物と分解物を質量スペクトル,及び赤外吸収分光スペクトルから同定するとともに,これらの化学反応を誘起する溶液中活性酸素種を化学プローブ法を用いて計測する.また,プラズマの医療応用として,プラズマ照射アミノ酸溶液をがん細胞に投与し,がん細胞殺傷効果を検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度(2017年度)予算を用いてプラズマジェット装置の改良を行う予定であった.しかしながら,プラズマジェットの照射条件を変化させることにより,溶液中アミノ酸の酸化・分解反応に差異が観測されたため,本年度はこれまでのプラズマジェット装置を用いて実験を遂行した. (使用計画)来年度(2018年度)は,今年度(2017年度)の予算を用いて,プラズマジェット装置の改良を行う.またこれと平行して,2018年度の予算を用いて,溶液中活性酸素種計測やプラズマ照射溶液のがん細胞殺傷効果に関する評価を行う.
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