研究課題/領域番号 |
17K05102
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研究機関 | 佐世保工業高等専門学校 |
研究代表者 |
大島 多美子 佐世保工業高等専門学校, 電気電子工学科, 准教授 (00370049)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 粉体ターゲット / スパッタリング / 粒子径 / 混合粉体 / 混合量 |
研究実績の概要 |
本研究は、粉体をそのままターゲットとして利用したスパッタリング法を提案し、固体ターゲットにはない粉体特有の性質に着目して、ターゲットコントロールによる成膜の高度化を目的としている。平成29年度は、粉体特有の性質として(1)粒子径と(2)混合粉体の混合量について実験を行った。 (1)粒子径の異なる3種類のTi粉体を用いて、同一実験条件下で作製したTi薄膜の膜厚を比較した結果、粒子の体積は粒子径の3乗に比例することから、粒子径が大きくなると薄膜の堆積速度が増加することがわかった。一方、原子間力顕微鏡(AFM)測定によるTi薄膜の平均面粗さ(Ra)は、粒子径によらず膜厚の2 %以下と平滑な膜であることがわかった。また、その他の構造的特性については違いが確認されなかったことより、粒子径は堆積速度(膜厚)に依存することを明らかとした。 (2)粉体を混合するためにタイマー機能付V字混合機を作製した。ZnOとSiO2を重量比で1:1および1:4と変化させた混合粉体を用いて作製した薄膜は、X線回折装置(XRD)より成膜温度が500℃のときZn(JCPDF card No.00-004-0831) と一致する回折ピークが観測された。また、X線光電子分光分析装置(XPS)による化学結合状態の測定では、室温ではZnがOと結合しており、500℃ではZnが金属Znであることが確認され、XRD測定結果と一致した。焼結により互いに固溶し高密度の固体ターゲットと比較し低密度の粉体ターゲットでは、混合する粉体(化合物)の結合解離エネルギーが、原子への分解状態や堆積後の構造的特性に影響を与える一因であることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、粉体ターゲットコントロールによるスパッタリング成膜の高度化を目的とし、(1)粉体特有の性質である粒子径と混合粉体の混合量が膜質に与える影響の調査、および(2)外部より冷却・光・圧縮等を加えた粉体を用いることで新規なスパッタリング成膜技術の開発、に関する研究を行っている。(1)は平成29年度までに完了し、粉体スパッタリング成膜の基礎について詳しい知見を得た。(2)については(1)で得られた知見をもとに、様々な手法を用いて粉体に冷却・光・圧縮等を加えた状況を実現するための装置の改良や成膜パラメータの検討、膜質評価等を行い、スパッタリングプロセスの解明と粉体スパッタリング成膜の高度化を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
粉体ターゲットに外部より冷却・光・圧縮等を加える方法については、まず、移動磁界型のカソードを新たに導入することで、その移動速度に応じてプラズマも移動するため、ターゲット表面の温度上昇を防ぐことが期待できる。これは有機EL材料として用いられる低融点有機材料を粉体ターゲットとして用いた成膜に有効である。次に、プレス機を用いて粉体を圧縮することにより、密度の異なる粉体ターゲットと膜質との関係を明らかとし、スパッタリングプロセスの解明を試みる。その他、ターゲット表面への光照射等、これらは通常の固体ターゲットを用いたスパッタリング法では実現できない。そこで本研究では、これらの手法を用いて、粉体スパッタリング成膜の高度化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置トラブルが発生により、平成29年度内の導入を予定していた粉体ターゲット冷却用カソードが、平成30年度4月に納入されたためである。また、平成30年度の使用計画は次の通りである。 (物品費) 前述したように、粉体ターゲット表面の温度上昇を防ぐために改良したカソードの購入に充てる。(消耗品)プロセスガス、粉体ターゲット材料、基板等を計上する。(旅費) 研究成果の発表や国内外の研究者と議論や情報交換を行うため、国内および海外の出張旅費を計上する。(その他) 研究成果を広く公表するために、学術論文誌への論文投稿料とその印刷費等を計上する。
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