研究課題/領域番号 |
17K05112
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
水島 茂喜 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (60358091)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電子スピン共鳴法 / シリコン結晶 / 原子空孔濃度 / キログラム / 精密計測 |
研究実績の概要 |
質量の単位であるキログラムをプランク定数などの基礎物理定数によって実現することを目指した研究が注目されている。その一つが直径約94 mmの28Si単結晶球体の体積、モル質量、格子定数、酸化膜の厚さ、不純物濃度、原子空孔濃度を精密に計測し、キログラムを実現する方法である。 研究代表者は、28Si単結晶中の原子空孔濃度の計測が、高精度なキログラムの実現において重要な役割を果たすと考えている。そこで、本研究では質量の単位を初めて基礎物理定数によって定義するために、電子スピン共鳴法を利用して、28Si単結晶中の原子空孔濃度を高精度で決定することを目指している。 前年度までに、以下の通り28Si単結晶試料の作製と電子スピン共鳴法による測定を実施した。28Si単結晶試料の作製は、試料の精密な切り出し、鏡面研磨、精密洗浄で構成される。測定により、28Si単結晶中の各種の原子空孔濃度が1×10^12 cm^-3未満であることを見出した。結果として、これらの原子空孔による必要な質量欠損補正量は、1 kgの28Si単結晶球体に対して0.4 μg未満であると推定できた。更に、28Si単結晶中の原子空孔濃度の計測を更に高精度化するため、試料の作製方法の改良を試みた。計測により、原子空孔による必要な質量欠損補正量は、1 kgの28Si単結晶球体に対して0.2 μg未満であると推定された。 2019年度は、これまでの測定結果の解析と結晶内の濃度分布についてより系統的な調査を実施するための準備を行った。測定結果の解析結果は、2020年8月に開催される国際会議 2020 Conference on Precision Electromagnetic Measurements (CPEM 2020)で発表される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28Si単結晶試料の作製と電子スピン共鳴法による測定を実施し、28Si単結晶中の原子空孔濃度を定量した。本研究成果は、当該分野の専門家が参集する国際会議CPEM 2018で発表され、更にCPEM 2020で発表される予定である。また、本研究成果をまとめた研究論文は、査読付き学術誌IEEE Transactions on Instrumentation and Measurementに受理された。 これらにより、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
28Si単結晶中の原子空孔濃度を更に高精度に決定するため、浮遊帯溶融法によって成長させた円柱形単結晶の中心部と周辺部における原子空孔濃度の違いを引き続き検討する。研究成果を国際会議 CPEM 2020で発表する。研究成果を広く公表するため、研究論文を査読付き学術誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、シリコン結晶試料の作製と電子スピン共鳴法による計測を行い、研究成果を国際会議で発表するための準備を行う予定であった。しかし、他の研究者より結晶内の濃度分布を考慮していないとの指摘があり、より系統的な調査を実施するため、準備に想定以上の時間を要した。このため、試料の作製と電子スピン共鳴法による計測、研究成果の発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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