研究課題/領域番号 |
17K05113
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
浦野 千春 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究グループ長 (30356589)
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研究分担者 |
山田 隆宏 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (00377871)
中野 享 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究グループ長 (20357643)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 基礎物理定数 / ボルツマン定数 / SI単位 / ジョセフソン効果 / 熱雑音 / ジョンソン・ナイキストの式 |
研究実績の概要 |
国際単位系SIは2018年に国際度量衡総会で改定が決議され、2019年には利用が開始されることが予定されている。新しい国際単位系ではボルツマン定数は現在定義値として扱われている光速と同様に定義値となる。このため温度測定の基準であるボルツマン定数という極めて重要な基礎物理定数の決定に、客観的確証を高い精度で与えることが求められていた。 ボルツマン定数を精密に測定する熱力学温度測定手法には様々な方式があるが、我々はジョンソン雑音温度測定という電気的な測定手法を採用した。ジョンソン雑音温度測定は、安定な熱浴に置かれた抵抗器の両端に発生する電圧雑音(熱雑音)を精密に測定する手法である。我々は超伝導エレクトロニクス技術を駆使して開発した集積化量子電圧雑音源を基準信号源として用いたジョンソン雑音温度計を開発した。この装置を用いて測定した抵抗器の熱雑音のパワースペクトル密度と、別途精密に測定した抵抗温度計の抵抗値、および抵抗器の温度(水の三重点温度、273.16 K)をジョンソン・ナイキストの式に代入することにより、ボルツマン定数を求めることができる。この測定システムを用いて抵抗器の熱雑音を7日間断続的に測定し、積算されたデータからボルツマン定数を精密に求めた。測定システムの不確かさ評価も合わせて行った。我々が求めたボルツマン定数の値は2014年のCODATA値と比べて約3ppmの違いが見られたが、この差異は相対的合成不確かさである10.2ppmの範囲内である。我々が測定したボルツマン定数値は、他の独立な測定方法(気体定数や誘電率の精密測定など)と10 ppm)の精度で整合し、その定義値決定の正当性を確固とした。これにより、改定予定の国際単位系におけるボルツマン定数の決定に貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は、①ボルツマン定数改定のための精密測定、②プログラマブル集積型量子電圧雑音源の開発、③ガリウム温度定点の熱力学温度測定、の3つを実行する計画であった。 ①のボルツマン定数の精密測定については、予定通り、データ提出期限である2017年6月30日までに、論文提出が完了した。産総研の測定(方法、環境、結果)と海外のそれらを比較することにより、測定の品質を向上するための、様々な改良点が浮き彫りとなった。具体的には測定系を外来ノイズから守る電磁シールドと、データ収録システムの信頼性向上である。これらの問題の解決が、その後に続く熱力学温度の測定に先立ち重要であると判断し、これらの問題の解決に取り組んでいることが計画の遅延の第一の理由である。電磁シールドについては測定システム全体を収容できる大きさのシールドルームを実験室内に設置する工事を行った(平成30年5月完了)。データ収録システムについては、測定用コンピュータとAD変換器の間の光インターフェースおよびデータ収集のためのFPGAのファームウエアの改良に取り組んだ。このうち、光インターフェースに不具合があり、新しいデータ収録システムを用いたテストが滞っている。 ②のプログラマブル集積型量子電圧雑音源の開発については、素子の評価を行い、大まかに狙い通りの挙動をすることが確認できた。しかしながら、市販の制御装置由来の雑音のため熱力学温度測定には不十分であることがわかった。この問題を回避するため、バッテリー駆動の専用制御回路を開発しなければならず、この装置の設計・製作に時間がかかったことが遅延のもう一つの理由である。③の ガリウムの温度定点の熱力学温度測定については従来の集積型量子電圧雑音源を用いて不確かさ20ppm程度の予備的な測定は行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、熱力学温度定点の定義改定に向けた測定に取り組む。その前提として、測定システムの改良を完成させる。具体的には、測定システム全体を最近(平成30年5月)完成したばかりの電磁シールドルーム内に移設する。また、前年度開発が途中まで進んだデータ収録システムにおける光インターフェースの改良およびその動作確認を行う。この新しい測定環境において、①プログラマブル集積型量子電圧源の駆動実験、②それを用いたGaなど幾つかの熱力学温度定点の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度中の実験によって、当初計画で想定していなかった、液体ヘリウムが不可欠な測定を幾つか実行する必要があることが分かった。このため、当初計画で購入する予定であった物品(外注を含む)のうち自作可能なものは可能な限り自作したり、翌年度に持ち越し不可能な運営費交付金やその他の自己財源を本研究計画のために用いるなどして、平成30年度に使用可能な液体ヘリウムの費用を確保しなければならないと判断した。
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