研究課題
当該課題の研究では、大強度陽子加速器施設J-PARCにおいて、そこで発生する強力な白色中性子を駆使することで、高精度の中性子ホログラフィーが実現できることを実証した。特に平成29年度においては、BドープSi半導体、エネルギー材料BドープSiC,強相関電子系SmドープEB6(R:Yb, La)において中性子ホログラフィー実験を行い、ドーパント周りの原子像の再生に成功し、この手法が様々な物質に応用できることを実証した。また、Bを含まないSi単結晶でも測定を行っており、Bドープ系との比較から、ドープされたBがSiと置換していることを証明できた。これはすでに広く知られていることであるが、実験的に直接の証拠がえられたのは世界初である。その意味で重要な結果がえられた。中性子ホログラフィーはハンガリーのグループが先駆者であるが、従来の中性子ホログラフィーの精度は実際の先端的研究には不十分であった。その主な原因は原子炉での単色の中性子を用いたことにあり、本質的な弱点であった。本研究でJ-PARCでの白色(多波長)中性子を用いたことで、精度を飛躍的に向上させ、実際の先端的研究が実現できた。物質科学に強い日本において、さらに国際競争力の高い技法が確立できたことは日本にとっても重要なことである。また、実験数がふえたことで、測定の可否についてある程度定量的に判断がつくようになった。その結果、より多くの元素が観測対象になることがわかってきた。とくに水素は環境材料にとって重要な元素であるが、水素吸蔵物質での水素の位置を決定することも将来的には可能となることが見積もられている。
2: おおむね順調に進展している
当初計画では、BドープSiでのB位置決定、およびBまわりのSi構造の観測を目的としたが、それは達成できている。かつ、上述のように、多くのドープ系化合物においてドーパントまわりの局所原子構造の観測に成功している。これらの実験を通して、第1期の実験技術としては完成できたといえる。また、理論グループと連携し、中性子でのホログラフィーデータのもつ物理的意味の検討もすすめることができ、X線とは異なる新しい視点が生まれつつ有るのも進展である。さらに、H29年度には多くの招待講演を依頼されており、この課題研究が物理学、材料科学において注目度があがっていることも重要であろう。
これまではBやSm, Euなど、発生ガンマ線が非常に強い物質で実験をおこなったが、それらが成功したことをうけ、ガンマ線の発生の少ない元素にとりくむ。たとえば、太陽電池を想定して(InGa)Se2でのInまわりの局所構造観測をめざす。ただし、当初計画ではエネルギー分解能の高いGe型ガンマ線検出器の利用を計画していたが、Ge検出器の不調が発生し、H30年度に使用できるか危ぶまれる。その場合は、比較的エネルギー分解能が高いCeBr3検出器を複数本利用することで、対応できるか検討する。
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J. Phys. Soc. Jpn.
巻: 87 ページ: 061002(1)-(11).
/ doi/abs/10.7566/JPSJ.87.061002
Science Advances
巻: 3 ページ: e1700294(1)-(7)
DOI: 10.1126/sciadv.1700294