研究実績の概要 |
化合物半導体のカチオン空孔が電子スピン分極する場合のあることが知られており、スピン偏極陽電子消滅実験により、研究がすすめられている。そこで、本研究では、BN. AlN, GaN、BeO、ZnO、ZnS、CdSについて第一原理計算を行い、電子スピン分極に関する系統的な研究を行った。このうち、窒化物半導体では、EレベルとA1レベルに多数スピン電子が3個占有し磁気モーメントが3ボーア磁子となり、そのほかの半導体では、Eレベルに多数スピン電子が2個占有し、磁気モーメントが2ボーア磁子となる事がわかった。近接の4個のアニオン原子は、外側に格子緩和することにより、原子間の相互作用は弱くなる事がわかった。その結果、スピン一重項状態を導くJahn-Teller効果が抑制され、高い対称性C3Vを保つことが明らかになった。従って、近接原子の外側への緩和が、電子スピン分極の原因であると結論した。 また、スピン密度の空間分布の解析から、多数スピン密度の方が、少数スピン密度よりも分布が狭まっており、そのことが、スピン偏極陽電子実験で得られる、多数スピン電子と少数スピン電子の運動量密度の差の原因となっていることが示唆された。さらに、Co, Ni, Fe, Gdの強磁性体についても、スピン密度の空間分布は、多数スピン電子の方が狭まっており、s, p, d, f電子系において、類似の現象が観測されることが解明されつつある。この空間分布と運動量分布の関係を明確にするため、2成分密度汎関数理論に基づく運動量密度の試験的な計算を実行した。
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