研究課題/領域番号 |
17K05119
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
二宮 啓 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (10402976)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 二次イオン質量分析 / エレクトロスプレー液滴イオンビーム / 二次イオン収率 / 試料電圧パルス化 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究開発においてはまず、V-EDIビームを二次イオン質量分析(SIMS)へ応用していく上で重要となる飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)装置と接続したときの質量分解能を向上させることを試みた。一般にイオンビームを用いてTOF-SIMSにより分析を行う際には、イオンビームを10ナノ秒以下の短いパルスにして照射し、そのパルス化を行う際の信号を飛行時間測定のスタートとしている。従ってTOF-SIMS測定における質量分解能はそのパルス幅に大きく依存する。しかしながらV-EDIビームはそれを構成する1つの帯電液滴がもつ質量が大きく、またその質量が単一でなく分布をもつこともあり、10ナノ秒以下に短パルス化することが極めて困難であった。そこでV-EDIビームをパルス化する代わりに、二次イオンを飛行時間分析計へ輸送するために試料に印加する高電圧をパルス化する手法(試料電圧パルス化)を用いることにした。試料電圧パルス化におけるパルス幅や電圧を最適化したところ、1000以上の質量分解能を得ることに成功した。またSIMS用イオン化プローブとして現在最高の性能をもつBiクラスターや近年SIMSやX線光電子分光における深さ方向分析用スパッタプローブとして実用化された巨大Arクラスターと比較してどの程度分析性能を向上できるかを評価した。その方法としては同型のTOF-SIMS装置においてV-EDI、Biクラスターおよび巨大Arクラスターを照射したときに得られる二次イオンスペクトルを測定し、感度の基準となる二次イオン収率や分解片イオン強度比を比較した。これら3つのイオンビーム照射によって得られる二次イオンを測定したところV-EDIによる二次イオン収率は、Biクラスターや巨大Arクラスターよりも2桁以上高いことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は革新的な巨大クラスターイオンビームである真空型エレクトロスプレー液滴イオン(V-EDI)ビームを用いて、有機エレクトロニクスデバイスや生体組織などの実試料を従来のイオンビームでは到達できない圧倒的な性能で深さ方向分析やイメージング分析を実現することにある。そのための必要条件の一つとして測定における質量分解能は3000以上であることが望ましい。現在までに試料電圧パルス化法のパルス幅や印加電圧などのパラメータ調整により1000以上の分解能が得られることを確認したが、さらなる最適化が不可欠である。一方、V-EDIビームそのものの性能を評価するために、同型の飛行時間型二次イオン質量分析装置においてV-EDI、Biクラスターおよび巨大Arクラスター照射による二次イオンを測定したところ、V-EDIによる二次イオン収率はBiクラスターや巨大Arクラスターよりも2桁以上高いことがわかった。以上のことからV-EDIビームを用いることにより二次イオン質量分析の性能を大幅に改良できることが明らかとなってきており、試料電圧パルス化を用いる装置改良も順調に進んでいることから、おおむね当初の計画通りの研究開発を遂行できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は真空型エレクトロスプレー液滴イオン(V-EDI)ビームを二次イオン質量分析(SIMS)に応用するための要素技術開発を進め、さらには有機デバイスや生体組織といった実試料において従来にない性能をもつ深さ方向分析やイメージング分析を実現することを目的としている。そのために必要な質量分解能として3000以上を目標としているが、これまでに1000以上の分解能が得られた。これをさらに向上させる方策として、質量分析計内にアパーチャを設置してエネルギーの異なる二次イオンを除くことや質量分析計内の電極に追加速用の電圧を印加して検出器に到達する時間幅を圧縮することを検討している。次にV-EDIビームによるイメージング質量分析を実施するための予備実験を開始する予定である。現在保有している装置では、全二次イオンのイメージ像を投影モードの測定によって取得できるが、二次イオンを選別した上でイメージング分析を実施することができない。そこで質量分析計内に新たに二次イオンをパルス化するための電極を設置し、特定の二次イオンを抽出した上で質量分析イメージングが可能かどうかを試験する予定である。
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