世界でも類を見ない新しい巨大クラスターイオンビームである真空エレクトロスプレー液滴イオン(V-EDI)ビームを二次イオン質量分析(SIMS)法の一次イオンビームとして利用することにより、分析性能を大幅に向上させることを目的として研究開発を行った。SIMSにおいて現在最もよく普及している飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)では、イオン化のプローブである一次イオンビームを数10ナノ秒以下にまで短パルス化することが必須となるが、短パルス化できない場合でもTOF-SIMSを実施するために試料電圧パルス化法を考案し、新たに外付けの高速高電圧トランジスタスイッチ回路を製作、抵抗やコンデンサーの条件を調整して質量分解能を1000近くまで向上させることができた。またV-EDIビームを照射した試料表面を原子間力顕微鏡などで観測し、照射痕の直径・深さ・個数分布からV-EDIビームに含まれる帯電液滴の質量や価数を実験的に算出するとともに、1つの帯電液滴によるスパッタ体積を複数の手法で精密に評価した。さらにはV-EDIビームとこれまでに実用化されているクラスターイオンビームを同型の装置を用いてTOF-SIMS測定を行い、その分析性能を直接的に比較した。V-EDIビームは二次イオン収率についてはBiクラスターの1000倍以上、有効収率についてはアルゴンガスクラスターの100倍以上高いことがわかり、V-EDIビームを利用できればこれまでのSIMSの性能を飛躍的に向上できることがわかった。
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