高エネルギー重イオン、ガンマ線、電子線といった様々な放射線に対するスピンゼーベック効果素子の耐放射線特性を調べた。スピンゼーベック電圧、磁化、電気抵抗といった物性特性の変化から、スピンゼーベック効果素子の放射線環境下での利用限界を明らかにした。この結果からスピンゼーベック効果素子は優れた耐放射線特性を有することが示され、これを利用した熱電発電が放射線環境下でのスピントロニクス応用として有効であることが明らかとなった。この成果を踏まえ、スピンゼーベック効果素子を利用した2つの原子力分野への応用を提案した。ひとつめは「スピンゼーベック効果素子を用いた原子力電池」である。現在熱源としての放射性元素がプルトニウムに限られているのは、プルトニウムが放出するのが遮蔽の容易なアルファ線のみだからであり、それ以外の放射性元素では熱電変換素子を保護するための遮蔽が必須となる。スピンゼーベック効果素子が特に高いガンマ線耐性を示すことから、熱電変換素子への大掛かりな遮蔽が不要となる。熱源としての放射性元素をプルトニウムに限る必要がなくなり、深宇宙探査や深海探査などで状況に応じて適切な放射性元素を熱源として用いることが可能となる。ふたつめは「スピンゼーベック効果素子を用いた熱電発電システム」である。高フラックス環境下でも特性劣化が少ないため、使用済み核燃料保管庫の保管キャスク等に取り付けて熱電発電が可能となる。発電した電力は蓄電池に保存すれば非常用電源として利用可能となる。この2つについてそれぞれ特許として出願した。
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