研究課題
昨年度、圧力下の試験測定として行った有機ラジカル磁性体「ガルビノキシル」の中性子非弾性散乱において、分子の局所的な運動を示す励起モードとその圧力変化(加圧によるハード化)は観測されたものの磁気励起シグナルが観測されなかったことを受け、その理由の解明と対策を検討した。磁気励起が観測されなかった理由として考えられるのは、(1)スピンが分子上に広く分布しているため磁気形状因子の急速な減衰、(2)重水素化していない試料を用いたため軽水素の非干渉性散乱による大きなバックグラウンド、(3)印加圧力の不足による磁気秩序相の体積分率の低下、以上の3つであった。このうち1は、物質で決まってしまう要因である。また2は、大量の試料合成が容易ではない。そこで、3を改選すべく、従来のメゾアライト製圧力セル(最大圧力0.5GPa)からベリリウム銅製圧力セル(最大圧力1.2GPa)を整備した。また、昨年度は、1次元強磁性相関の発達のみが期待できる1.8Kでの測定だったが、今年度はHe3冷凍機を用いて、長距離磁気秩序が期待される0.3Kまで圧力セルを冷却し、非弾性散乱測定を行った。しかしながら、磁気励起を観測することはできなかった。この結果を受け、当初計画していた分子スピンラダー系の非弾性散乱実験の課題申請は延期し、重水素化試料の量産を検討し始め、同時に、同物質のスピン状態解明のため、まずは軽水素体試料での実験が可能なミュオンスピン緩和測定を申請を行うことを決めた。また、圧力セルによるバックグラウンド低減のための小型ラジアルコリメーターの仕様検討を行い、設計に着手した。
3: やや遅れている
有機ラジカル磁性体ガルビノキシルのテスト実験により、申請時に計画していた分子スピンラダー系における磁気励起観測のための中性子非弾性散乱は、今のままではシグナルが弱く観測できないことが予想されたため、課題申請を見送ることにした。この対応として、重水素化の方法を模索しつつ、まず軽水素体試料を用いてミュオンスピン緩和測定による磁気秩序状態とダイナミクスの解明を行うことにした。また、小型ラジアルコリメーターの仕様検討と設計には予定どおり着手しているが、製作には至っていない。
分子スピンラダー系については、来年度、軽水素体での測定が可能なミュオンスピン緩和測定により、中性子散乱に先立って重要なデータとなる磁気秩序状態とスピンダイナミクスの解明をおこなうため、課題申請を行う(採択されれば令和元年度後期に実施)。また、中性子実験のための重水素体試料は、合成の段階で重水素体を量産することは非常に困難であるため、J-PARC施設内にある重水素化ラボの装置を使用した重水素化の方法を模索する。また、圧力下中性子非弾性散乱のための小型ラジアルコリメーターの設計を進め、製作に着手する。
当該年度予定していた小型ラジアルコリメーターの製作に至らなかったため、次年度使用額が生じた。次年度、製作を予定している。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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