研究課題
本研究課題では、J-PARC物質・生命科学実験施設に設置された中性子非弾性・準弾性散乱装置「アマテラス」において、クランプ式圧力セルを用いた1.2GPa程度までの圧力実験環境を整備し、有機ラジカル系や金属錯体などの分子磁性体の磁性研究に挑戦している。平成30年度までは、圧力下で磁気秩序を示す有機ラジカル磁性体ガルビノキシル(軽水素体)の中性子非弾性散乱のテスト実験を行い、軽水素体では、磁気励起の観測は困難であるがフォノンスペクトルの観測は十分圧力セルを用いても可能であることが明らかになった。これらを踏まえ、令和元年度は、重水素化試料の作製が可能で有機ラジカル系よりも磁気シグナルの観測が可能な金属錯体を中心に、再度、物質の選定を行った。着目した物質は、単一次元鎖磁石の候補であるCo-HNN(略称)で、磁性イオンであるCoを含むため、磁気励起シグナルの観測が期待できる。この系の、低温での磁気相関解明を目的とし、本年度課題申請を行った。さらに本年度は、クランプ式圧力セルに装着し圧力セルからの散乱中性子によるバックグラウンドを低減するための小型ラジアルコリメーターの設計と材質の選定を進めた。コリメーターのブレードは通常、薄いマイラーやアルミのような部材に中性子吸収材であるB4Cやカドミウム、酸化ガドリニウムなどを塗付することが多い。しかし最近になって、海外の中性子散乱施設から、新技術を用いた製作の情報がもたらされた。これを踏まえて仕様を再検討した結果、これまで設計してきた従来型のコリメーターを製作すべきという結論に至り、製作に着手した。これらと並行して、当該装置のユーザーと協力し、本課題で開発した圧力セルを用いた実験課題も実施している。
4: 遅れている
クランプ式圧力セルを用いた圧力下における中性子非弾性散乱測定を実現するため、当初平成30年度に予定していた、小型ラジアルコリメーターの製作に関して、最近、中性子吸収材であるボロンを本体の材料としてコリメーターを3Dプリンティングで製作する新技術が、海外の中性子散乱施設から報告された。これを踏まえ、仕様の再検討を行ったが、研究代表者の多忙により、情報収集や仕様再検討に時間を要したため、遅れが生じた。
本年度選定した試料であるCo-HNNの重水素体であるCo-DNNの中性子非弾性散乱実験を、最終年度である令和2年度に行う。(5月現在、新型コロナの影響で共同研究者が大学で試料作製できない状況にある。課題も再申請する予定。)引き続き、圧力セルを装着するための小型ラジアルコリメーターの製作を進める。
小型ラジアルコリメーターの製作に着手するのが遅れたため、製作にかかる予定だった費用が次年度使用額として生じた。次年度、小型コリメーターの製作を行うので、次年度使用額はその製作費に充てる。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Nature
巻: 567 ページ: 506-510
10.1038/s41586-019-1042-5
Physica B
巻: 562 ページ: 148-154
10.1016/j.physb.2018.11.061
J. Neutron Research
巻: 21 ページ: 17-22
10.3233/JNR-190106