本研究課題では、J-PARC物質・生命科学実験施設に設置された中性子非弾性散乱・準弾性散乱装置「アマテラス」において、ピストンシリンダー型圧力セルを用いた1.2GPaまでの圧力下での中性子散乱実験環境を構築し、最終的に有機ラジカル磁性体や金属錯体等の分子磁性体の磁性研究に応用することを目的としてきた。最終年度となる令和2年度は、一次元的な磁気構造をもつ金属錯体Co-HNN(略称)が、鎖間相互作用が無視できるほど小さい単一次元鎖磁石であるか、あるいはバルクの磁性体であるかを、中性子非弾性散乱により鎖間の磁気励起を観測することで明らかにする予定であった。しかしながら、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により試料作製ができず、期間内に測定を実施することができなかった。 一方、圧力実験環境の整備に関しては、令和元年度までに、圧力セルに装着する小型ラジアルコリメーターの仕様を検討した。令和2年度は、その設計をもとに、小型ラジアルコリメーターの本体を試作し、実際に圧力セルに装着して、バックグラウンドの評価を行った。中性子非弾性散乱では、分子磁性体の微弱な非弾性散乱シグナルよりはるかに大きな圧力セル本体のバックグラウンドが存在するため、このバックグラウンドをいかに低減できるかが重要なカギとなっていた。ピストンシリンダーの外側に、中性子吸収材である酸化ガドリニウムを塗布したマイラーのブレードをもつ小型ラジアルコリメーターを装着して試験測定を行った結果、非常に効果的にバックグラウンド低減できることを示した。
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