研究課題/領域番号 |
17K05130
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
中尾 裕則 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (70321536)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光渦 / 放射光 / 軌道角運動量 / 共鳴X線散乱 |
研究実績の概要 |
第3世代の放射光施設では光の位相の揃ったコヒーレントX線を利用した研究が進んでいるが、この光の等位相面をらせん状に制御した光渦と呼ばれるX線ビームが、新たな光として注目されている。また、光の等位相面をらせん状に制御した結果としてX線が軌道角運動量を持ち、光渦ビームを用いた新たな光学遷移過程の観測の可能性としても注目されている。この光渦ビームの生成方法として、回折限界光源の条件のもとAPPLE-II型の挿入光源を利用することで、軌道角運動量を持った光子が生成できることが、理論・実験で報告された。この挿入光源より生成されるX線ビームは、理論的に純粋に軌道角運動量成分を持つと期待され、回折限界光源ではない光源においても光渦ビームの生成が期待できる。そこで、回折限界条件ではない光源となるPhoton Factory (PF) のBL-16A の挿入光源(APPLE-II 型) を用いた光渦ビームの生成を試みた。挿入光源からの1次光・2次光のビームプロファイルを、ナイフエッジスキャンにより測定した。観測されたビームプロファイルは、SPECTRAでシュミーレーションした結果とズレはあるものの大まかに再現されることがわかった。次に、生成されたX線ビームが軌道角運動量を持つことをピンホールからの回折パターンを測定することで評価した。その結果、光渦の位相特異点が空間的に広がっているために、生成されたX線ビームが軌道角運動量を持つかどうかを判別することは出来ないことが分かった。ここまでの研究結果は、論文(AIP Conf. Proc. 2054 (2019) 060035)にまとめ発表した。一方、並行して行っていたスパイラルゾーンプレート(SZP)による光渦ビームの生成と評価をする過程で、新たなX線顕微鏡の可能性を見い出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
挿入光源で生成された光渦ビームの評価に関しては、論文にまとめた。一方、SZPを利用した光渦ビームの生成に関しては、評価が遅れている。しかしながら、SZPを利用した光渦ビームの生成と評価から、新たなX線顕微鏡の可能性を見い出した。この顕微鏡は、メゾスコピック構造のイメージングに極めて有効と考えられるだけでなく、光渦ビームを組み合わせることでの新しいイメージングの可能性があり、この方向で研究を推進しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に見い出した新たなX線顕微鏡を建造し、立ち上げ、この装置を用いた光渦ビームの生成と評価を行う。 *新たなX線顕微鏡の立ち上げ:今回新らたに製作しているX線顕微鏡は、観測できる視野を広い空間スケールで変えられるだけでなく、試料走査なしにワンショットで2次元領域の画像が得られ、メゾスコピック構造の観測、さらにはその動的状態の観測に適した画期的な観測手法である。しかしながら、立ち上げてきた顕微鏡の筐体のnmスケールでの振動問題が明らかとなった。そこで、顕微鏡の組み直しを行ったうえで、本顕微鏡の実証実験を進める。 *SZPによる光渦ビームの生成と評価:新たに建造するX線顕微鏡システムでは、仮想光源からの良質なコヒーレントX線をSZPに入射でき、設計通りの光渦ビームの生成が期待できる。SZPでは、ビームが100nm以下に集光されるが、この焦点位置でのビーム形状を測定することで、軌道角運動量を持った光が生成されたのかを評価する。 *光渦ビームと物質の相互作用の評価:軌道角運動量を持つ光渦ビームは偏光状態の空間分布をもち、これが軌道角運動量の起源と考えられている。この空間的な広がりと吸収などの散乱断面積との間には関係があると指摘されているものの、実証はされていない。そこで、SZPからの光渦ビームの集光点と試料の位置関係を変化させることで、光渦ビームのサイズと吸収・回折実験の2p→ 3d 遷移の大きさとの関係を解明する。 *光渦ビームの新たな利用法:光渦ビームを利用した新たな光学遷移過程の観測は、実験的な報告はあるものの、その後続々と報告が出てきているわけでもない。そこで本課題では、新たなX線顕微鏡に光渦ビームを組み合わせた新たなイメージングの可能性も検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者らの光渦ビームの生成・評価試験で見出した新しい顕微鏡は、メゾスコピック構造のイメージングに極めて有効と考えられるだけでなく、光渦ビームを組み合わせることでの新しいイメージングの可能性があり、この方向で研究を推進してきた。しかしながら、顕微鏡の筐体のnmスケールでの振動問題が明らかとなった。そこで、顕微鏡の組み直しをしたうえで、SZPの評価試験を行うため。
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