第3世代の放射光施設では光の位相の揃ったコヒーレントX線を利用した研究が進んでいるが、この光の等位相面をらせん状に制御した「光渦」と呼ばれるX線ビームが、新たな光として注目されている。また、光の等位相面をらせん状に制御した結果としてX線が軌道角運動量を持ち、光渦ビームを用いた新たな光学遷移過程の観測の可能性としても注目されている。本研究課題では、(1)放射光施設の挿入光源を利用する方法と、(2)コヒーレント光と回折格子等の組み合わせた方法により、光渦ビームの生成を試みた。 (1) Photon Factory のBL-16A の挿入光源を用いて、光渦ビームの生成を試みた。観測されたビームプロファイルは、理論的な予測を大まかに再現した。生成されたX線ビームの位相の評価を行ったが、光渦の位相特異点が空間的に広がっているため回折を利用した方法では評価できないことを解明した。[AIP Conf. Proc. 2054 (2019) 060035] (2)スパイラルゾーンプレートを用いた光渦ビームの生成と評価をする過程で、広視野・低空間分解能イメージングから狭視野・高空間分解能イメージングまで連続的に変化させる測定手法の着想に至った。このアイディアを具現化したマルチスケール軟X線回折顕微鏡の開発・立ち上げを行い、シングルショットでの実空間イメージングや視野可変性の実証に成功したところである。さらに、フォーク型回折格子により光渦の生成に成功するとともに、この顕微鏡で観測できる逆空間情報を利用したインラインホログラフィ手法で、光渦ビームの位相分布の観測にも成功した。この結果より、磁性体中のトポロジカル欠陥構造に対する新たな観測方法の提案も行った。[Phys. Rev. Applied 14 (2020) 064069]
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