研究課題/領域番号 |
17K05133
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
長谷 純宏 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 上席研究員(定常) (70354959)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | クラスターイオン / 突然変異 / 致死効果 / 枯草菌 |
研究実績の概要 |
クラスターイオンビームは、複数の原子が数Å内に近接した状態で物質に入射することから、従来の単原子のイオンビームに比べて特異なエネルギー付与を示す。生物試料における研究は皆無であるが、複数の粒子が近接した領域を同時に通過することによる遺伝子変異効率の向上等、クラスターイオン特有の照射効果が期待される。本研究では、産業微生物として重要な枯草菌を生物材料のモデルとして、クラスターイオン照射効果の特徴を評価することを目的とする。 胞子を均一に照射するためにはできる限り単層に並べた状態で照射する必要がある。常法により調整した胞子の水溶液をシリコンウェハーに滴下し、凍結乾燥した後、ウェハーを氷上において結露させ、その後、自然乾燥させることにより胞子をほぼ単層に配置することに成功した。タンデム加速器で加速した炭素イオンを真空チャンバー内で照射した後、ウェハーから回収した胞子を培養し、コロニー形成能に基づいてフルエンスと生存率の関係を調査した。胞子の厚みが約0.48umであるのに対して、計算値1.86um の飛程を持つ1MeV C1においても、照射粒子数の増加に対して生存率が低下し、1x10e10(particle/cm2)で完全に致死したことから、胞子が大きな塊りになっていることはなく、一層に近い状態で配置されていることが確認された。 原子あたりエネルギーの等しい炭素イオンの組み合わせとして、2MeV C1、4MeV C2及び6MeV C3(いずれも2MeV/atom)の致死効果を比較した結果、単原子イオンに比べてクラスターイオンの方が僅かに粒子あたりの致死効果が高いことが示唆された。しかしながら、クラスターイオンではファラデーカップを用いた粒子数測定において過大評価する傾向が示唆されたことから、飛跡検出器等を用いて正確な照射粒子数を測定する方法を早急に確立する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に予定していた研究計画である枯草菌胞子へのクラスターイオン照射方法の確立、ならびにコロニー形成能に基づく致死効果の評価を実施したことから、おおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の試験結果から、クラスターイオンではファラデーカップを用いたフルエンスの測定において若干の誤差を生じている可能性が示唆された。クラスターイオンでは二次電子の発生量が多いことなどが理由として考えられるが、照射粒子数の正確な測定は、全ての評価の基準であることから、飛跡検出器等を用いて正確な照射粒子数の測定方法を確立することを第一に行う。その後、当初計画で予定している5-フルオロウラシルを含む培地を用いてupp(uracil phosphoribosyltransferase)遺伝子変異株をポジティブ選抜する実験系などを活用し、遺伝子変異率に関するクラスターイオンの照射効果を評価する。また、酵素活性及びゲノム構造改変の評価方法を確立し、変異体選抜に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末近くに行われた旅費の精算時に、残額がゼロを下回ることが無いように、消耗品の購入の一部を次年度に持ち越したため。
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