研究課題/領域番号 |
17K05140
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
畔上 秀幸 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (70175876)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 偏微分方程式 / 最適化 / 数値解析 |
研究実績の概要 |
2018年度の理論的な成果として,Hesse勾配とよぶことができるような新しい2階微分の概念を提起した.その概念を基にして,本研究で注目する2つの問題(密度変動型位相最適化問題と領域変動型形状最適化問題)に対してHesse勾配を評価する方法を明らかにして,数値例によって本来のHessianに相当する量になっていることを確認した. 実問題への応用に関しては,次のような論文が掲載された.(1)弾性体の密度変動型強度最大化問題に対して,Mises応力のKreisselmeier-Steinhauser関数の2階微分を用いた計算法に関する論文(10.1007/s00158-018-1937-z) (2)ギターの形状最適化問題に関する論文(10.14495/jsiaml.10.29) (3)流れ場の安定性を向上させる形状最適化問題に対する論文(10.1080/10618562.2018.1500692)(4) 線形弾性体の振動モードを魚の泳ぎモードに近づける形状最適化問題に対する論文(10.14495/jsiaml.10.65)(5) 部分的な Cauchy データから内部の穴形状を同定する形状逆問題に対する論文(10.1007/s13160-018-0337-5) さらに,次のような成果を得た.(1)嚥下運動における筋活動同定問題に対して,嚥下時の観測データを用いて,舌内部の筋肉の収縮量を示すマップを得ることができた.(2)スポーツシューズの設計においては,実験により観測されている力が加わったときの変形が理想的な変形に近づくような形状最適化問題を定式化し,それを解くためのプログラムを作成し,シューズに適用し,期待された結果を得た.(3)最適化計算を高速化させるために,有限要素法によって構成された大規模連立1次方程式を特異値分解によって縮退する方法に関する理論をまとめ,数値例を得た.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論的な研究に対して,次のような進捗状況にある.一般的な等式制約付き最適化問題において,評価関数の2階微分は,設計変数が制約を満たす許容方向集合(接面)上を変動することを仮定して,探索ベクトル(設計変数の変動ベクトル)の2次形式としてHessianを求めていた.それに対して,本研究では,前のステップで得られた探索ベクトルが得られていれば,それを固定したときの1階微分(実数値関数)に対してLagrange乗数法を適用することによって,Hessianに相当する量を計算する方法を発見した.その量は1つの探索ベクトルを固定しているので,任意の探索ベクトルに対する1次形式となり,Hesse勾配とよばれるような量になっている.従来,このような用語は使われたことがなく,新しい概念であると考えられる.現在,その概念をさまざまな最適化問題に適用しようとしている. 「研究実績の概要」でかいた実問題への応用に関する成果に対して,次のような進捗状況にある.(1)嚥下運動における筋活動同定問題に対して,これまで理論とプログラムの開発を進めてきたが,簡単なモデルでの検証を終え,実際の医用データから構築された舌の3次元形状の表面データを用いた解析を行うまでに至っている.現在までに得られた結果から,医師らが当初予想していた筋活動とは異なる結果が得られ,本解析法の有用性が認識された. (2)スポーツシューズの形状最適化問題に対して,理論とプログラムがほぼ完成した.そのプログラムを用いて企業の研究協力者が実際のシューズモデルし,期待された結果を得た.(3)形状最適化問題の数値解析を高速化するために,有限要素法によって離散化された大規模連立1次方程式を特異値分解によって縮退する方法について,3次元線形弾性体の剛性最大化問題に適用し,計算時間が短縮される結果を得た.
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度において得られた次の成果について,国際会議で発表し,論文を学術誌に投稿する予定である.(1)嚥下運動における筋活動同定問題に関する理論と舌への応用事例 (2)スポーツシューズの形状最適化問題に対する理論と実際のシューズモデルへの適用例 (3) 特異値分解を用いた形状最適化問題に対する数値解析の高速化 上記の研究のほかに,次のような研究を進めたい.(1)部分的な Cauchy データから内部の穴形状を同定する形状逆問題に対して,境界積分によって与えられた評価関数の2階微分の評価方法に関して,応用事例を増やしたい.(2)密度変動型位相最適化問題や領域変動型形状最適化問題を解析する際にステップサイズや解の正則性を適切にするために様々なパラメータで調整されている.これまで,それらのパラメータは経験に基づく勘と試行錯誤におって決定されてきた.本研究では,今後,これらのパラメータを適切に決めるための理論的な枠組みについて検討したい.また,適切なアルゴリズムについて検討したい. (3)脊柱側弯症のCT画像データに適合するように正常な脊柱有限要素モデルを変形させる問題について,理論に関しては見通しを得ているが,実際にプログラムを開発し,医用画像データから得られた脊柱の境界形状データを用いて,実際に動かしてみて,その方法が実際に有効なのかを確かめたい.(4)筋活動同定問題を嚥下運動以外にも適用してみたい.例えば,腸の蠕動運動において器官の内部で筋がどのように活動しているのかについては直接観測する方法は知られていないようである.必要に応じて専門家らにアドバイスを求めながら,腸の数値モデルを構築し,観測されている形状変化を与えたときに内部でどのような筋活動が起こっているのかを可視化することに挑戦したい.
|