研究課題/領域番号 |
17K05140
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
畔上 秀幸 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (70175876)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 偏微分方程式 / 最適化 / 数値解析 |
研究実績の概要 |
2020年度は,これまでの成果をまとめた英文の書籍「Shape optimization problems」を出版した.2016年に出版した和文書籍の内容に加えて,本研究の成果として得られた次の2点が追加された.(1)解の存在に関する定理を示した.(2)領域変動型形状最適化問題の2階微分の評価方法についてより適切な結果を示した. 応用分野では,次の成果を得た.(1)部分的なCauchyデータから外側形状を同定する形状逆問題(Bernoulli問題)をDirichletデータに注目した形状最適化問題として定式化し,評価関数の2階微分を用いたNewton法による解法を示した論文が国際学術誌に掲載された.(2)スポーツシューズのソール形状最適化問題に対する論文が最適設計に関する国際学術誌に掲載された.また,アッパー材に対する密度型位相最適化問題に対する理論をまとめることができた.(3)嚥下運動における筋活動同定問題に関して,解剖学的知見に基づいて,複数筋の配向データが既知と仮定したときの数値例を2つの国際会議で発表した.さらに,解の存在を保証するような問題設定に変更した.また,状態決定問題を強制変位から境界力に修正した場合の理論を検討した.(4)Karhunen-Loeve展開を用いた形状最適化問題に対する数値解析の高速化に関する論文を執筆し,国際学術誌に投稿した.また,状態決定問題が非線形問題にも適用できるように,増分型方程式に対してKarhunen-Loeve展開を用いた方法を開発し,その有効性を数値例で示した.この成果を国内会議で発表した.(5)魚型超弾性体の泳ぎモード創生のための形状最適化問題に関する研究成果を国際会議で発表した.(6)脊柱側弯症のCT画像データから骨量増減量の同定問題に関する研究成果も国内会議で発表した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論研究に対しては,次の成果を得た.(1)密度変動型位相最適化問題と領域変動型形状最適化問題に対して設計変数の変動に対する評価関数の2階微分を求める方法に関して,状態方程式を設計変数で微分した関係に基づいて求める方法に加えて,Lagrange乗数法による方法が存在することを明らかにした.(2)本研究で対象としてきた最適化問題に対して解の存在定理を示した. 実問題への応用に関しては,次の成果を得た.(1)弾性体の密度変動型強度最大化問題に対して,Mises応力のKreisselmeier-Steinhauser関数の2階微分を用いた計算法を示した.(2)ギターの形状最適化問題を構成し,その解法を示した.(3)流れ場の安定性を向上させる形状最適化問題を構成し,その解法を示した.(4)Bernoulli問題に対して,様々な評価関数を用いて形状最適化問題を定式化して,評価関数の2階微分を用いたNewton法による解法を示した.(5)スポーツシューズの設計に形状最適化問題を応用した例として,ソールの形状最適化問題が設計に役立つことを実証することができた.また,アッパー材に対する密度型位相最適化問題も設計に役立つ可能性があることを見出した.(6)嚥下運動に関わる生体器官の形状変動が得られたときに,器官内部で筋が収縮した様子を同定する問題を構成して,その数値例が得られることを示した.(7)形状最適化問題の数値解析を高速化するために,Karhunen-Loeve展開を用いて有限要素モデルの自由度を低減する方法を開発し,その有効性を示した.(8)魚型超弾性体の泳ぎモード創生のための形状最適化問題を構成して,その解法を示した.(9)脊柱側弯症患者固有の成因を探ることを目的として,CT画像データから骨の増減量を同定する問題を構成して,その解法を示した.
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度において得られた次の成果を論文として学術誌に投稿する予定である.(1)嚥下運動における筋活動同定問題に関する研究成果 (2)超弾性体の有限変形問題を状態決定問題とする形状最適化問題に対するKarhunen-Loeve展開を用いた高速化に関する研究成果 (3)スポーツシューズの個人別設計を可能にするための足モデルの構成法に関する研究成果 上記の研究のほかに,次のような研究を進めたい.(1)スポーツシューズのアッパー材に対する密度型位相最適化問題を実際のシューズモデルに適用して,実用性を確認したい.2020年度において,実験結果を精度よく再現する実際に使用されている織物構造の構成則を求めることができた.また,アッパー材の一部を取り出した簡単なモデルを用いて,興味深い密度分布が得られることを確認している.これらの成果を踏まえて,アッパー材のフィット性を向上させるような実際のシューズモデルを提案したいと考えている.(2)脊柱側弯症の患者CT画像データに基づく骨の増減量同定問題を実際に患者CTデータに適用して,特発性側彎症の成因を骨量の増減マップから推測してみたい.2020年度において,患者CTデータから有限要素モデルを作成し,正常な脊柱からその変形に至るまでの変形を求めることができた.しかしながら,椎間関節などの重要な個所の同定精度が低いという課題が残った.今年度は,同定精度を高めるための方法を検討したい.(3)魚型超弾性体の泳ぎモード創生のための形状最適化問題に関して,流体との連成を考慮して,泳ぎモード創生が可能であるのか確認したい.2020年度においては,解の存在が保証された問題設定に対して,有限変形を考慮した超弾性体が理論通り収束することを確認した.2021年度は,流体との連成を考慮して,目標とする泳ぎモードが創生されることを確認したい.
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスまん延により,参加予定であった学会がオンライン開催となり,旅費と参加登録費が大幅に削減されたため,未使用額が生じた.次年度も当初計画通りの使用を予定するが,同様な事態になった場合には,研究費を返却する予定である.
|