研究課題/領域番号 |
17K05143
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福田 育夫 大阪大学, たんぱく質研究所, 招へい准教授 (40643185)
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研究分担者 |
森次 圭 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 特任准教授 (80599506)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子動力学 / 相互作用計算 / 力学系 / 運動方程式 / サンプリング / 数値計算 / 数値積分 |
研究実績の概要 |
分子動力学 (Molecular Dynamics; MD) シミュレーションは,生体高分子系,機能材料系等さまざまなマクロな系の分子レベルでの解析を可能にし,我々の生活に大きく影響を与え得る技術の一つになってきている.しかし,現状のMD計算法においては,シミュレーション条件について,技術的問題に起因した様々な制約が存在する.これを解消するために,具体的に,従来のカットオフ(相互作用の打ち切り)の考え方を一般化する方法,および対象とする物理系に他の任意の環境系を容易かつ統計力学的厳密にカップルさせる安定な数値解法を開発した.これにより,多様なシミュレーションを精密かつ安定に実現する方法の確立に資する. 一般化カットオフ法は,系の総電荷が零でなければならない,或いは系が周期的でなければならない,といった従来のさまざまな制約を解消するために開発する方法である.本年度は,基本方法である1次元積分表現の検討を行なった.また,この方法の方向性を吟味するために,関連手法であり,我々が既に開発したZero-multipole summation (ZM) 法についての詳細検証を行った. 物理系に他の任意の環境系をカップルさせる理論的可能性に関しては,既に我々が発明した合成系密度力学 (Double Density Dynamics; DDD) 法により基礎付けられている.但し,十分安定なシミュレーションを実行するための技術的課題があり,それを段階的に解消していく事が必要である.本年度は,サンプリングをより強力にして安定なシミュレーションを実現する技術を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般化カットオフ法について,1次元積分表現の検討を行なった.これにより,予定していた連続近似を用いた相互作用関数を用いる方向性が正しい事が分かった.一方,その数学的表式を吟味していく中で,遠方の寄与を繰り込む新しい方向性にも気づいたので,その可能性についての検討も行った. ZM法の吟味としては、境界条件に由来する誤差の定量的見積もりを行った.本来非周期的である系に,周期性を仮定した従来のエバルト法を用いて周期境界条件を課すと一定のアーティファクトが生じること,及びZM法では,そのような仮定が不要な分,誤差が小さくなることを,水中のペプチド系にて,種々の量の自由エネルギーを測ることで明らかにした.また,精度とともに,ZM法の計算速度性能の詳細な調査を行った. DDD法では,対象となる物理系を取り囲む環境の温度を動的に変えつつ,各温度の実現確率を任意に定めることができ,この実現確率と,各温度が実現した際の物理系変数の実現する条件付き確率との積として,全系―物理系と温度(環境)系―の実現確率を表す.DDD法は全系のこの任意の確率密度に比例する不変測度を持つような常微分方程式で定義される運動方程式であり,これを解く事で物理状態の強化されたサンプリングを行う.本年度は,サンプリングをより強力にして安定なシミュレーションを実現する技術を開発した.具体的には,まず,近似分配関数の情報を逆温度の設定確率分布関数に取り入れる技術を開発した.次に,収束因子の導入を行った.これは物理量期待値の有限性を保証するために運動方程式に入れる因子であり,温度分布の両端での振る舞いを安定化させる効果を持つ.これらの方法をテストモデル系に適用した数値検証を経て,得られた逆温度定確率分布関数の精度が実際に大きく改善されることを,水中のペプチド系にて検証した.加えて,任意のパラメタに対応可能な安定な数値積分法を構築した.
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今後の研究の推進方策 |
一般化カットオフ法に関して、当初想定していたものとは別の一般化の道筋にもたどり着いたので、その可能性について引き続き探っていく。それとともに,予定していた3次元積分表現についての理論的考察を進める. 本年度手開発したDDD法の安定化法は,当初予定していた方式(の一つ)と必ずしも一致しないが,その再考察及び多数のシミュレーション結果から推測された方法であり,有力だと考えている.なお,予定していたもう一方の方式は,上記の方式に矛盾するものではなく,寧ろ,さらなる安定化と一般的をもたらす方法と考えらえるため,詳細な検討を行いたい.また,DDD法において揺らがせる温度を,物理系に付随する任意パラメタにまで一般化する仕組みを検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 研究発表・打ち合わせのための旅費を優先させたため. (使用計画)予定していたクライアントマシンを購入する.
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