研究課題/領域番号 |
17K05147
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
友枝 明保 武蔵野大学, 工学部, 准教授 (70551026)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 渋滞学 / 数理モデル / 交通流 / セルオートマトン / 差分方程式 / 安定性 / 双安定 |
研究実績の概要 |
一昨年度に提案した交通流を記述する新しい離散モデルは,解の安定性の観点から交通流モデルの本質的な解構造である一様流に対する双安定性を示さず,モデルの修正が必要となっていた.このことから昨年度は,メタ安定分岐を示すスロースタートモデルをヒントに,過去の2時刻を考慮する数理モデルへと拡張し,このモデルの数値実験から双安定性を示すことまでを達成していた.しかし,交通流の特徴を表現する基本図との対応や数理的な解析が不十分であったため,本年度は,これらの点について数理モデルの整合性検討・理論解析を行い,以下の結果を得た. まず,線形安定性解析により,一様流に微小擾乱が加わった場合は,線形安定となる密度領域と線形不安定となる密度領域が存在することを明らかにした.さらに,モデルに含まれる過去の交通密度の空間的な重みを調整するパラメーターによって,線形不安定となる密度領域が変化することがわかり,特に,前方の交通密度を考慮する割合が大きくなるにつれ線形不安定となる密度領域が小さくなり,ある値を超えるとすべての密度領域で一様流解が安定となることも明らかとなった.すなわち,双安定性を示すためには,前方を考慮する割合がある程度小さくなければならないことがわかった.次に,基本図との対応については数値実験で検証し,線形安定な領域の中で,一様流解と非一様流解のどちらにも収束する密度領域の存在が確認され,実際の高速道路の実測データとの整合性が示された.さらに,基本図においても,上と同様,空間的な重みを調整するパラメーターによって,密度―流量関係が一様流解上にプロットされることが確認された.これは,このパラメーターを制御することによって渋滞を解消しうる可能性があることを示唆した重要な結果と言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の予定では,数理モデルの解析をもとに渋滞解消理論のフレームワークを構築するとともに,実証実験によるフィードバックを行い,ネットワーク化へと発展させる段階であったが,上のとおり,数理モデルの解析・検討に時間を要したため,本来の進捗状況より遅れている状況である.
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今後の研究の推進方策 |
修正した双安定性を持つ新しい数理モデルを発信するために,英文の専門誌へと本研究成果を投稿予定である.それと並行して,超離散方程式の特徴を明らかにすること,連続極限を行うことで既存の流体モデルとの対応を明らかにすること,さらには,提案モデルに対して,計算機も援用し,安定な非一様流解の存在を分岐解析の観点から示すこと,などを進めていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度からの繰り越し分についてはある程度執行できたが,実験を想定して計上していた物品購入費や人件費が研究進捗の遅れから,学会発表等で執行予定であった旅費が新型コロナウイルス感染症の影響から,それぞれ執行できておらず,次年度へと繰り越す結果となった.引き続き,研究を推進するとともに,実験や出張にかかる費用の執行が難しい場合は,既存データの購入費用に充てることやオンラインでの研究活動に支障が出ないような物品購入に充てることも検討する予定である.
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