研究課題/領域番号 |
17K05149
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研究機関 | 茨城工業高等専門学校 |
研究代表者 |
鯉渕 弘資 茨城工業高等専門学校, 国際創造工学科, 教授 (00178196)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 力学的性質 / ポリマー材料 / モデリング / Finsler幾何 / 応力ひずみ曲線 / リキッドクリスタルエラストマー / シミュレーション / 統計力学 |
研究実績の概要 |
この研究は, (1) コラーゲン(動物の筋肉等)の応力-ひずみ曲線がJ-曲線になる理由 (2) 光照射で変形するLiquid Crystal Elastomer(LCE) 厚膜 (3) 柔らかい物質の外部電磁場による変形現象 をその研究テーマとして計画した。どれもFinsler Geometry (FG)モデルの方法を用いた研究である。この方法の最大の特徴は「ポリマー材料を2または3次元Finsler空間と見る」ことである。具体的には,ポリマー(または液晶)の方向に関する情報をもとに,物質の幾何学的構造(=計量)をEuclid計量からFinsler計量に,非常に単純な方法で,変形させる。このことにより,ポリマーの複雑な相互作用の情報が無くとも,物質の力学的性質が引き出せる。このFGモデルは統計力学的モデルであるが,ポリマー間の相互作用エネルギーとしては,液晶のネマチック相転移のモデルとして有名なLebwohl-Lasher型のポテンシャルを仮定するのみである。物質の形を決めると考えられている「液晶とポリマーの間の(複雑な)相互作用」はハミルトニアンに含まれていない。従って,FGモデルの方法は,従来の「相互作用エネルギーを仮定する方法」とは異なる「全く新しい」方法であるけれども,汎用的で強力な方法と期待できる。このことを示すのが本研究の3つのテーマである。H29年度は,(1)の「応力-ひずみ曲線がJ-曲線になる理由」について研究した。既に報告されている実験データはひずみが最大150%程度までの範囲であるが,全ての範囲でFGモデルは,実験結果を再現できることが分かった。ひずみが50%程度までの研究結果は,国際会議と学術論文に発表した。また,大きなひずみ(150%程度まで)の結果は,今後学術論文投稿の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績の概要で述べた計画の(1),(2),(3)はそれぞれ,(1)機械的外力,(2)光,(3)電場(または磁場),という3つの外部刺激によるLCEの応答が,FGモデルで説明できるかどうかという研究である。計画の(1)「応力-ひずみ曲線がJ-曲線になる理由」は上記のように論文発表まですべて終了しており,追加の論文発表を残すのみとなっている。残り2つ:(2) 「光照射で変形するLCE 厚膜」,と(3) 「柔らかい物質の外部電磁場による変形現象」,についても研究を既に始めている。(3)は,LCEに電場が作用した時の変形に関する既に報告されている実験結果をFGモデルで再現する研究である。これら(2),(3)についても予想どおりの結果が得られて,それらの結果はFGモデルの考え方が有効なことを示している。途中経過であるが,それらの結果は国際会議で発表している。
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今後の研究の推進方策 |
計画どおりに,(2)「光照射で変形するLCE 厚膜」,と(3)「柔らかい物質の外部電磁場による変形現象」,のシミュレーション実行とそれらの国際会議発表,学術論文を準備する。また,申請書にも記載したとおり,本申請研究に関連する「分子膜の表面張力は臨界点で膜の形に依存する」,「Disk 状の分子膜も1次の崩壊相転移を起こす」の研究についても進めていき,発表(学術論文等)する。 これまでに分かったことは,FGモデルはいくつかの異なった現象(異なった外部刺激を受ける異なった物質)に適用できるということである。このとき,現象ごとに変わるのは,FGモデルで仮定する方向自由度σの役割である。例えばLCEの場合はσは液晶分子の向きになる。コラーゲンとポリマーの場合は,σはそれらの全体ではなく小さな部分(⇔局所的な部分)の向きを表わすと考える。コラーゲンやポリマーは,たとえそれらが非晶状態(⇔曲がりくねった状態)であっても「局所的には直線」と見なせると考えられるからである。このように,方向自由度σの解釈を変えるだけで,これまで異なった現象と考えられていたものが,FGモデルを通してみれば,それらのモデルの「数学的内容が同じ」という意味で,同一の現象と見なせる。このような視点からは,(1),(2),(3)以外の現象にもFGモデルが適用できる可能性が高い。例えば,ひずみが400~500%にも及ぶゴムの弾性的性質,ポリマーだけでなく無機材料の圧電効果,即ち電場の向きで伸縮する材料の弾性的性質,等々,「ミクロな(統計力学的)視点からの定量的な評価が難しい」多くの現象が,FGモデルの適用対象となり得る。従って,その適用範囲をポリマー以外の材料にも広げたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(i) 掲載料が無料および(これまでの出版実績から)discount有のところに論文を出版できたこと,(ii)国際会議参加費にdiscountがあったこと,などが理由である。 この差額分は,次年度,国際会議参加費および旅費として予定している。
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