研究実績の概要 |
高階数、特に階数2の非コンパクト局所対称空間に作用するラプラシアンのスペクトルを跡公式の単純化を用いて調べ、数論的応用を研究するのが目的である。具体的には、階数2の群の非ココンパクトな離散部分群に対する素測地線定理の精密化やラプラシアンのスペクトル、固有空間の次元の評価を研究するために、対応するセルバーグ型ゼータ関数とその高階の導関数の非零領域を詳細に調べることが必要となる。 階数1の典型例であるリーマン面に対するセルバーグゼータ関数については、Luo, Minamide, Jorgenson らによってセルバーグゼータ関数の導関数の非零領域についていくつかの結果が得られている。また、モジュラー群などに対する非コンパクトリーマン面に対しては、技術的理由によりセルバーグゼータ関数自身ではなくて、“修正された”セルバーグゼータ関数の導関数について研究されてきたことに注意する。 今回、階数2の群の非ココンパクトな離散部分群の典型である実二次体のヒルベルトモジュラー群に対して、そのセルバーグ型ゼータ関数それ自身とその導関数についてその非零領域について研究を行い、零点の個数についてのある種の評価を得た。方法はこれまでに得ていたヒルベルトモジュラー曲面に対する“二重差分”跡公式を用いる。跡公式の右辺に現れる放物元や2型双曲元の寄与がより精密に評価できた事がポイントである。得られた零点の個数評価の誤差項を改善するには、セルバーグ型ゼータ関数の虚軸方向への漸近評価が必要となるが、これと他の階数2の群への拡張は次年度に考察したい。
|
今後の研究の推進方策 |
階数2の群Sp(2,R)またはSU(2,2)の場合に、「擬尖点形式」の具体的な構成を研究する。ともにコンパクトなカルタン部分群を持ち、それぞれ、共役でないカルタン部分群を4個、3個持つ。Sp(2,R)のカルタン部分群の階数は、0,1,1,2であり、SU(2,2)は0,1,2である。これらの群上の「擬尖点形式」を熱核を用いて構成し、ユニポテント重み付き軌道積分のフーリエ変換を明示的に計算することを目標とする。得られた跡公式の単純化(1型)を用いて一変数セルバーグ型ゼータ関数を定義し、解析的性質や数論的応用を考察する。また、Sp(2,R)には階数1の共役でないカルタン部分群が二つありこれらのカルタン部分群上軌道積分が消えないことから、セルバーグ型ゼータ関数を構成する際に、これらの共役類を分離できるか検討する。SU(2,2)にはこの問題は発生しないことに注意する。
|