セルバーグゼータ関数は体積有限なリーマン面上の素な測地線の長さに関するオイラー積で定義されるゼータ関数である。前年度までの研究では、セルバーグゼータ関数の対数微分の非絶対収束域における2乗積分の評価を行い、モジュラー群と不定値四元数環から定義される余コンパクトな群の部分群に対して、従来知られているものよりもよい評価を得ることができた。実はこの非絶対収束域における値の評価は、ゼータ関数の普遍性を調べる上で重要である。ゼータ関数の普遍性の研究は1970年代のVoroninによる研究以降、活発に行われているが、そのほとんどはリーマンゼータ関数やディリクレ級数、またはセルバーグクラスのゼータ関数などの位数が1のゼータ関数に関するもので、セルバーグゼータ関数に対しては、Drungilas-Garunkstis-Kacenas(2013)と見正(2021)によるそれぞれモジュラー群と主合同部分群に関する研究しかない。2022年度の研究では、このセルバーグゼータ関数の普遍性の研究に取り組み、モジュラー群と主合同部分群だけでなく、もっと一般的にモジュラー群と不定値四元数環から定義される余コンパクトな群の部分群に対して、セルバーグゼータ関数に関する普遍性定理が成り立つことを証明した。さらに前年度までの研究成果を利用することで、これまでの研究よりも普遍性定理が成り立つ非絶対収束域内の領域を広げることもできた。本研究の成果についてはすでに、国内の研究集会で発表しており、近々論文としてまとめ、国際学術誌に投稿し掲載を目指す予定である。
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