研究実績の概要 |
R は非負整数によって次数付けられた d 次元の可換環で 0 次斉次分 R_0 は Artin局所環とし、R は R_0 上の代数として有限個の 1 次斉次元で生成されていると仮定する。 本年度の研究では、R 上の有限生成次数付加群 M に対し、M の自由分解を与える非輪状複体を用いて、M の第 i ヒルベルト係数 e_i(M) を効率的に計算する方法を追求した。ヒルベルト係数は、次数付加群 M の性質を忠実に反映する不変量ではあるが、具体的に与えられた M に対してその値を計算することは難しいことが多い。そこで、R 上の有限生成次数付加群に対して相対的ヒルベルト係数という新たな不変量を導入し、いくつかの次数付加群の間の相対的ヒルベルト係数を比較することを試みた結果、その応用として、M の自由分解に現れる次数付自由加群たちのデータを用いて e_i(M) を記述する公式を与えることが出来た。さらに、この公式の実用性を保証する作業として、R が体上の多項式環の場合に、具体的な斉次イデアル I に対して R/I のヒルベルト係数の計算を実行してみた。 例えば、R が X_1,..., X_d を変数とする体上の多項式環のとき、1 以上 d 未満の整数 r をとり、X_{r + 1},..., X_d によって生成される R の斉次イデアルと、R の極大斉次イデアルの積を I として、その剰余環 R/I を R 上の次数付加群と見て M とおくと、e_0(M) = 1 となり、0 < i < r ならば e_i(M) = 0 で、さらに e_r(M) は (-1)^r と d - r の積に一致する。さらに、X_1,..., X_r は M の上表列をなすことが分かり、(X_1,..., X_r)M による M の剰余加群のヒルベルト係数も計算可能である。
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