研究実績の概要 |
2021年度も,正標数の代数的閉体上定義された代数多様体の特殊な構造について研究を行った。 特に注力したのは,単有理準楕円曲面のMordell-Weil群の構造の解明である。単有理準楕円曲面は,標数3の場合は有理準楕円曲面およびK3曲面のとき,標数2の場合は有理準楕円曲面のときに,それぞれ伊藤浩行氏によってMordell-Weil群の構造が解明されている。そこで伊藤浩行氏,大津嘉輝氏との共同研究により,残された標数2のK3曲面のうち,Artin不変量が3でIII型と呼ばれる可約ファイバーが20本存在するものについて調べた。その結果,研究対象とした曲面のMordell-Weil群を構成する128個のセクションの定義式とそれらの間の群構造の詳細な記述を与えることに成功した。さらに,これらのセクションと可約ファイバーとの交差の状況を解析し,セクションが各可約ファイバーを構成する二つの成分のどちらと交わっているかを調べてセクションごとに20次元ベクトルを与えることにより,Mordell-Weil群から(20,7,8)線形符号が構成できることを示した。得られた結果は,現在論文として準備中である。また,さらにEuler-Poincare標数が高い曲面で準楕円ファイブレーションの構造を持つものや,一般ファイバーが(2,5)カスプであるような準超楕円ファイブレーション構造を持つ曲面に対しても,今回の解析における手法が適用できることが見込まれるため,新たに研究に着手している。 このほか,標数2の単純特異点の変形空間の構造に関する研究も行う予定だったが,昨年度に引き続いてコロナ禍で研究集会やシンポジウムに参加できなかったことも影響し,結果として今年度はあまり進展させることができないままに終わった。
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