研究課題/領域番号 |
17K05211
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
眞田 克典 東京理科大学, 理学部第一部数学科, 教授 (50196292)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 代数学 / 環論 / ホッホシルトコホモロジー / リー代数構造 / Gerstenhaber構造 / Batalin-Vilkovisky構造 |
研究実績の概要 |
多元環のホッホシルトコホモロジー環のリー代数構造は、コホモロジー環上に-1次のリー・ブラケットが定義され、次数付リー代数であるとともに、コホモロジー環のカップ積との間に次数付微分則が成立しているものです。これはGerstenhaber構造と呼ばれます。これまで、このGerstenhaber構造に加えて、-1次の作用素(BV作用素)の存在に関する研究が進められており、多元環によっては、リー・ブラケットがこの作用素で表現できることが知られています。この構造はBatalin-Vilkovisky構造(BV構造)と呼ばれます。BV構造は多元環に対する導来同値の不変量であることも知られ、その重要性が認識されています。すでに対称多元環のホッホシルトコホモロジー環はBV構造をもつことが知られており、次の目標として、フロベニウス多元環のホッホシルトコホモロジー環はBV構造をもつか、という問題があります。特別なフロベニウス多元環に対しては、ホッホシルトコホモロジー環に加えて、ホットシルトホモロジー、キャップ積、コンヌ作用素の組が満たす構造(Tamarkin-Tsygan calculus)を利用して、ホッホシルトコホモロジー環がBV構造をもつことが示されています。 本研究課題の主要な目標は、以上を踏まえて、フロベニウス多元環に対してコホモロジーを全次元に拡張した完備ホッホシルトコホモロジー環におけるBV構造の存在性を研究すること、また具体的なフロベニウス多元環に対するBV構造を決定することです。 本年度は東京理科大学の臼井智氏との共同研究でBV作用素の候補となるものを構成しました。一方で、具体的なフロベニウス多元環に関する研究としては、同大学の鯉江秀行氏、板垣智洋氏と共同で、計算例として重要な対象である自己移入的中山多元環のホッホシルト拡大の箙多元環の表示の研究に取り組みました。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
完備ホッホシルトコホモロジー環のBV構造の一般論としての研究は、東京理科大学の臼井智氏と共同で進めており、Tamarkin-Tsygan calculusを完備ホッホシルトコホモロジー環で考察することで、簡潔な構造として捉えることができることがわかりました。 一方で、上記ホッホシルト拡大の箙多元環の表示に関する研究成果を共著論文「On presentations of Hochschild extension algebras for a class of self-injective Nakayama algebras」(Hideyuki Koie, Tomohiro Itagaki and Katsunori Sanada)を学術誌に発表できました。また、この結果の一部をドイツ・シュツットガルト大学で講演する機会が与えられ、関心を持ってもらうことができました。また共著者の一人によって、「第50回環論および表現論シンポジウム」および2018年度日本数学会年会で研究成果が発表されました。この成果は、対称多元環ではないフロベニウス多元環のBV構造の重要な計算例の対象となるものです。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、完備ホッホシルトコホモロジー環にBV作用素を構成することが主要な目標となります。BV作用素をコンヌ作用素の拡張として構成するという研究方針で進めていきます。 一方で、完備ホッホシルトコホモロジー環のカップ積は標準的なホッホシルト複体上で構成されていました。したがって、これまでのリー・ブラケット等の計算はこの枠組でのものでありましたが、これは具体計算には向いていません。そこで、標準的でない射影分解上でのリー・ブラケットの構成の先行研究を参考にして、上記の自己移入的中山多元環のホッホシルト拡大の箙多元環表示の結果を今後のBV構造の具体計算に利用していきます。 平成30年度は、チェコ・プラハでのICRA2108(2018年多元環の表現論国際会議)で、自己移入的中山多元環のホッホシルト拡大の箙多元環表示の研究成果を報告する予定です。この研究集会では、研究打ち合わせを行う予定です。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) ドイツ・シュツットガルト大学への国外旅費が予定していたよりも低い額で済んだ。 (使用計画) 平成30年8月にチェコ・プラハで開催されるICRA2018(2018年多元環の表現論国際会議)に参加のための国外旅費として40万円、国内で開催される「代数学シンポジウム」、「環論および表現論シンポジウム」などへの国内旅費として10万円、他に、学会参加費、本研究課題に関連する書籍および電子機器備品等として14万円を計上します。
|