研究実績の概要 |
今年度は、英文による著書「classical mirror symmetry」の執筆に大幅な時間を割いた。これは、古典的ミラー対称性の理解に必要な背景知識、古典的ミラー対称性の仮説に基づいたグロモフ-ウィッテン不変量の計算の手順、および私の近年の研究成果である、古典的ミラー対称性による計算過程を擬写像のモジュライ空間の観点から再構成する結果をまとめたものである。本は、2018年5月に出版される予定である。
後、長年の懸案であった、複素射影空間内の超曲面のミラー対称性の計算において鍵となる、ミラー変換の公式の幾何学的証明の概略をプレプリントとして発表した。この論文においては、これまでの方針であったコンチェビッチの固定点定理を用いた煩雑な計算による証明を押し通す事をやめ、擬写像のモジュライ空間の交点数を計算する際に現れるexcess intersectionの寄与を摂動空間を導入することにより評価するという方針を導入し、極めて簡潔なミラー変換の導出の方針を提示した。ただし、この論文に関しては、証明で導入した摂動空間に対する厳密な議論をする必要があり、隙のない議論を完成するにはもう少し時間が必要かもしれない。
また、齋藤逸人氏と共同で、2点付きCP^1から重み付き射影空間P(1,1,1,3)への擬写像のモジュライ空間のチャウ環を決定し、そのモジュライ空間の交点数の母関数が楕円曲線のj関数の逆関数に一致する事を証明する結果をプレプリントとして発表した。この論文において用いた擬写像のモジュライ空間の交点数を初等的な留数積分を用いて計算する手法は、交点数がミラー対称性の計算に用いられる超幾何関数の展開係数に一致する事の簡潔な証明を与える。この手法は、前述した著書でも取り上げたが、今後広い応用が期待される。
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