研究実績の概要 |
非コンパクトリーマン多様体上の熱核の長時間挙動と空間の大域的幾何構造の関係はこれまで様々な設定のもとで研究が行われてきた。特にガウス型評価は、Li-Yau(1986)によりRicci曲率が非負な多様体上で成り立つこをを示した歴史的な結果の後、Moser, Davies, Fabes,Stroock, 楠岡, Grigor’yan, Saloff-Coste ら多くの研究者の貢献により、等周不等式やPoincare不等式(スペクトル幾何的性質)、Harnack 不等式や調和関数の挙動(調和解析的性質)との深い関係が明らかとなった。このような背景のもと、今年度はガウス型評価を持たない典型的な例である非コンパクト多様体の連結和上の熱核の長時間挙動の研究を A. Grigor'yan 氏, L. Saloff-Coste氏と共同で行った。その結果として、Laplace 方程式の resolvent kernel の連結和特有の評価を用いて熱核のシャープな評価を得ることに成功した。熱核にボトルネック効果が観察されない例や、反ボトルネック効果などのnon-parabolic な場合には見られなかった新しい現象を発見した。この結果は論文としてまとめ投稿し、Journal de Mathematiques Pures et Appliquees およびこれらの概説が雑誌「数学」に受理された。一方、べき零被覆グラフ上の非対称ランダムウォークの長時間漸近挙動の研究を引き続き慶応大学の河備氏、岡山大学の難波氏と共同で行い、中心極限定理型の収束を示した。これらの研究は論文としてまとめ、現在論文投稿中である。
|