研究課題/領域番号 |
17K05215
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
石渡 聡 山形大学, 理学部, 准教授 (70375393)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポアンカレ定数 / 連結和 / 熱核 |
研究実績の概要 |
本年度はボトルネック構造を空間上のポアンカレ定数について考察し、ボトルネック構造を反映する新現象を明らかにした。多様体上の precompact open set U に対し、ポアンカレ定数はU上のノイマン境界条件のもとでのラプラシアンの正の最小固有値の逆数として定義される量で、ユークリッド空間上では r の2乗のオーダーを持つことがしられている。また、Ricci曲率が非負の多様体上での r の2乗のオーダーを持つことが Li-Yau(1987) により知られていた。更に、1990年代には本研究課題における研究協力者でもある Grigor'yanとSaloff-Costeらにより、ポアンカレ定数が r の2乗のオーダーを持ち、体積2倍条件を持つならば熱核が上下からガウス型の評価を持つことがあきらかとなっていた。一方、連結和上ではポアンカレ定数はrの2乗よりも大きいオーダーを持つことは古くから知られていた。このような状況のもと、本研究では連結和上の中心部分の距離球に関するポアンカレ定数は、2番目に大きいエンドのみが決定するという大変驚くべき結果を得た。この結果を用いると例えばn次元ユークリッド空間の2つの連結和上のポアンカレ定数は nが3以上ならば rのn乗、nが2ならば rの2乗と log r の積になることがわかった。証明には Kusuoka-Stroock が熱核のガウス型評価からポアンカレ定数の rの2乗の評価を求めた方法を用いた。このため、連結和上の熱核についても新しい結果を得た。これらは現在論文としてまとめ、投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ感染症の影響により2年以上研究協力者との直接の研究打合せができず、研究の遂行に困難が生じたが、最近になってようやくオンラインによるディスカッションにより議論が進展できるようになった。このため課題遂行にはやや遅れていた部分があるが、本研究課題の核心部分である多様体の連結和の空間におけるボトルネック構造を解析的性質としてポアンカレ定数の最良の評価を求めることができ、これらを現在論文としてまとめ投稿準備中であることから、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。一方、ボトルネック構造を、最適輸送理論を用いて特徴付ける研究に関しては、これまでとは異なる研究者との研究打合せが必要となり、コロナ禍の状況では遂行することがほとんどできなかった。この部分は今後コロナの状況が改善してきてから遂行していく課題である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題はコロナ感染症により主に海外にいる研究協力者との研究打合せが困難になったことから2022年度までに延長することになった。このため、今年度の研究課題の推進方法について述べることにする。今年度はまず最初に、昨年度までに得られた多様体の連結和上のポアンカレ定数の最良評価に関する諸結果を論文としてまとめ、投稿する。同時に関連する学会や研究会などにおいて広く研究発表を行い、関連する研究者との研究打合せにより関連する研究課題を新しく創出し、それらに取り組んでいく。また、最適輸送理論を用いたボトルネック構造の特徴付けを行うことで、これまでに得られていたボトルネック構造を持つ空間上の熱核や関数不等式等の諸結果を、新しい視点から観察し、多様体を一般化した対称であるの距離空間上でのボトルネック構造の幾何解析学構築に取り組んでいきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症蔓延防止措置により、県外・海外への出張が制限されたことから研究協力者との研究打合せができず、研究遂行に影響が生じたことから研究期間を延長した。今年度はコロナ感染症の影響が落ち着いてきた段階で国内外にいる研究協力者との研究打合せを再開し、ボトルネック構造の幾何解析構築の最終段階を遂行する予定である。このために残額のうち40万円を使用する。残額をオンラインでのディスカッションに必要な情報通信機器の購入に充てる計画である。
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