非コンパクトリーマン多様体上の幾何解析について、令和4年度は昨年度までに得られてた連結和上の熱核のシャープな評価を動機として引き続きBielefeld大学の Alexander Grgor'yan氏、Cornell大学の Laurent Saloff-Coste氏との共同研究により、特に連結和の中心部分の距離球上のノイマンラプラシアンの固有値の逆数として定義されるポアンカレ定数の評価について研究を行った。ポアンカレ定数は関数の分散とディリクレエネルギーの比の下限とも同値であり、様々な不等式の中で用いられる重要な量(不等式)である。特に半径rの距離球のポアンカレ定数がrの2乗の評価を持ち、体積2倍条件を持つならば熱核がガウス型評価を持つこと、放物型ハルナック不等式と同値であることがしられており、連結和の場合にもこのような様々な幾何構造と関係することが期待されることから重要な研究対象であると考えられる。研究成果として連結和上のポアンカレ定数は体積増大度が2番目に大きいエンドにしかよらない、という全く新しい事実を解明した。証明には連結和上の熱核評価を用い、Kusuoka-Stroockが熱核がガウス型評価を持つ場合に用いた方法を連結和の場合にアレンジして用いた。この結果は昨年度までに得られていた連結和上の熱核の評価とともに連結和のような対称性の低い解析のしにくい空間においてもユークリッド空間のような良い構造を持つ空間で得られてる熱核、スペクトル、調和関数などによる空間の幾何構造の特徴づけが可能であることを示唆しており、幾何解析において大変興味深い結果であるといえる。
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