研究課題/領域番号 |
17K05220
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
近藤 慶 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (70736123)
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研究分担者 |
内藤 博夫 山口大学, その他部局等, 名誉教授 (10127772)
中内 伸光 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (50180237)
安井 弘一 大阪大学, 情報科学研究科, 准教授 (70547009)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 薄滑解析 / 大域リーマン幾何学 / リプシッツ写像 / 微分構造 / 異種構造 / 微分球面定理 / 最小跡 / 折り紙 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,薄滑解析(Nonsmooth analysis)の観点からリーマン多様体上のリプシッツ写像の特異点論を微分幾何学において確立し発展させることにあり,その確立と発展を促進させるために次の二つの問題(I)と(II)の解決を目指す:(I) 断面曲率が-1以上かつ直径がある正の定数以下である多様体列{M_i}がアレクサンドロフ空間Xに崩壊するとき,十分大きいiに対してM_iからXへのほとんどリプシッツ沈め込みとなるような写像は存在するか否か; (II) 4次元球面に同相な滑らかな4次元多様体は4次元球面に双リプシッツ同相か否か.
問題(I)に関して:平成30年度は,平成29年度から執筆を開始した単著論文『Approximations of Lipschitz maps via Ehresmann's fibrations』をarXiv.orgに投稿した.論文番号は,arXiv:1811.04340である.本論文の主結果は「コンパクト・リーマン多様体Mから連結コンパクト・リーマン多様体N(dim M≧dim N)へのリプシッツ写像FがM上にClarkeの意味で特異点を持たなければ,Fを近似する局所自明ファイブレーション族が存在する」である.
問題(II)に関して:Weinsteinの計量変形技法により二枚の4次元円板の境界の貼り合わせで得られる4次元多様体X(球面に同相)上には最小跡が1点となる点を許容する計量が存在し,更にCerfの結果よりXは標準球面であることがわかる.この事実より,最小跡が1点となる点を「許容しない」4次元位相球面の最小跡の構造が鍵を握る。そこで平成30年度は,最小跡についての知見の情報収集を目的とした国際研究集会『The Cut Locus 2018』(東海大学札幌校舎,9月3日から6日)を主催者として開催した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
問題(I)に関して:平成29年度報告書にある様に学内分担者・中内から「リーマン幾何学における薄滑解析の定式化を内在的に整備すべき」との指摘を受け,平成30年度は上欄の単著論文(arXiv:1811.04340)の執筆においてその内在的定式化と命題および定理の厳密な証明を目指した.ところが,リーマン多様体間のリプシッツ写像の「一般化された微分」の随伴概念が定義されていなかったため,一から随伴の定義を模索する必要があった.随伴の定義の定式化後は,他の概念との整合性の確認およびそれに伴う証明の再点検が生じ,多くの時間を割かざるを得なかった.しかし,リプシッツ写像の「一般化された微分」の随伴概念は,薄滑解析を適用したリーマン多様体間のリプシッツ写像の特異点論と崩壊理論との関係の研究において今後重要な役割を果たすものと考えている.
問題(II)に関して:平成29年度報告書にある様に,定理「もし最小跡が1点となる点を許容する二つのコンパクト・リーマン多様体の(2つの最小点を結ぶ測地線に沿った)互いの放射曲率がL^1ノルムに関して十分近いならば互いに微分同相である」を主結果とする論文を国際学術雑誌に投稿していたが,編集アシスタントのミスで一年間レフェリーに回されることなく放置された状態が平成30年8月まで続きかつ非受理という結果になり,該当論文の他誌への再投稿のための再編集に時間が取られたため。
更に,当初の計画とは別に,本研究課題(薄滑解析の概念を適用したリプシッツ写像の特異点論)と「折り紙の理論」を適用した偏微分方程式に関するDacorogna-Marcellini-Paoliniの論文[J. Math. Pures Appl. 90 (2008)]との間に強い類似性を発見したため,互いの関係を解明する必要が生じ,取り組むべき研究テーマのバランスが変化したため。
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今後の研究の推進方策 |
問題(I)に関して:「研究実績の概要」欄で述べた単著論文の主結果の応用として,Reebの球面定理のリプシッツ関数版を考察し,その結果をその単著論文に含めて,令和元年中頃までに国際学術雑誌に投稿したい.Reebの球面定理のリプシッツ関数版の考察は崩壊先が1次元空間である状況において,薄滑解析の概念を通した崩壊理論考察の礎になるものと考える.
問題(II)に関して:上欄で述べた様に最小跡が1点となる点を「許容しない」4次元位相球面の最小跡の構造の解明に遅れがあるため,この方面および関連領域の研究情報を集中的に蓄積するために関連研究者の招聘や関連研究集会等への参加を積極的行い,遅れを取り戻したい.
ところで,上欄において本研究課題と「折り紙の理論」を適用したDacorogna等の論文[J. Math. Pures Appl. 90 (2008)]との間に強い類似性があることを述べた.折り紙を実現する写像は2次元ユークリッド空間から3次元ユークリッド空間へのあるリプシッツ写像であり,折り紙の折り目はその写像の特異点である.Dacorogna等は先の論文において,その特異点を調べ,純な折り紙の研究で良く知られている川崎(敏和)条件をn次元ユークリッド空間で一般化し,ある陰型偏微分方程式系に関する Dirichlet 問題のクラスの解を与えることに成功している.さて,Dacorogna等の論文はユークリッド空間の間のリプシッツ写像に関する議論であるので,令和1年度は研究代表者の論文[Nonlinear Anal.155 (2017)]と先の単著論文で確立したリーマン多様体間のリプシッツ写像に関する特異点論を適用して,Dacorogna等の論文にある諸結果をリーマン多様体上で拡張することを考察していきたい.この考察の目的は,本研究が当初の予想を超えた広がりを持つ可能性を示すことにある.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末が予想に反して多忙であったことから,3月上旬に参加予定であった名城大学における研究集会に参加できなくなったため.次年度時は旅費として使用予定である.
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