研究課題/領域番号 |
17K05223
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
酒井 高司 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (30381445)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 対称空間 / 対称対 / 対称三対 / 対蹠集合 / 旗多様体 / Lagrange部分多様体 / Floerホモロジー |
研究実績の概要 |
Kahler多様体において対合的反正則等長変換の不動点集合の一つの連結成分として与えられる部分多様体を実形と呼ぶ.定義から実形は全測地的Lagrange部分多様体になる.連結コンパクトLie群Gの随伴軌道はG不変なKahler構造を持ち,複素旗多様体と呼ばれる.我々は,複素旗多様体に対して,あるトーラス作用を用いて対蹠集合の概念を定義した.一般に,複素旗多様体にはk対称空間の構造が入る.我々が与えた複素旗多様体の対蹠集合の定義はk対称空間の点対称を用いて定めた対蹠集合と一致し,特に,コンパクト型Hermite対称空間の場合はChen-Naganoによって与えられたコンパクト対称空間の対蹠集合の概念と一致する.複素旗多様体の極大対蹠集合はあるWeyl群の軌道として表され,したがって任意の極大対蹠集合はGの随伴作用により互いに合同になる. Riemann対称対の線形イソトロピー表現の軌道は複素旗多様体に実形として埋め込まれ,実旗多様体と呼ばれる.我々は,複素旗多様体において,二つの実旗多様体を考え,それらのLagrange交叉を調べた.実旗多様体を定める二つの対合が可換な場合に,二つの実旗多様体が横断的に交わるための必要十分条件を対称三対を用いて与えた.また,二つの実旗多様体が横断的に交わるとき,その交叉は対称三対のWeyl群の軌道として与えられることを示した.これにより離散的な交叉は複素旗多様体の対蹠集合になることが分かる.さらに,実形の交叉の対蹠性を応用することにより,Kahler-Einstein計量をもつ複素旗多様体において,必ずしも合同とは限らない二つの実形に対するZ_2係数Floerホモロジーを求めた.これらの結果は井川治氏(京都工芸繊維大学),入江博氏(茨城大学),奥田隆幸氏(広島大学),田崎博之氏(筑波大学)との共同研究による.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複素旗多様体内の二つの実形が横断的に交わるとき,その交叉は対蹠集合になる.特に,コンパクト型Hermite対称空間の場合は,点対称によりholomorphic stripのモジュライ空間に自由なZ_2作用が自然に誘導され,実形の交叉がZ_2係数Floerホモロジーの生成系を与えることが分かる.一般の複素旗多様体の場合は,対蹠集合の元を固定する対称変換は位数2とは限らないが,コンパクトLie群Gのある特別な対合を構成することにより,holomorphic stripのモジュライ空間に帰納的にZ_2作用を誘導することができる.この事実により,必ずしも合同とは限らない二つの実形に対するZ_2係数Floerホモロジーを求めることができた.この結果について,2017年3月に東京大学にて開催された日本数学会2018年度年会において研究発表を行った.また,大阪市大で開催された国際研究集会"Geometry of Submanifolds and Integrable Systems" において講演を行った. 大野晋司氏(大阪市立大学),浦川肇氏(東北大学)との共著論文 Biharmonic homogeneous submanifolds in compact symmetric spaces and compact Lie groups が Hiroshima Mathematical Journal に掲載受理された. 2017年11月30日(木)から12月2日(土)にかけて研究集会「部分多様体論・湯沢2017」を開催した.また,2018年2月10日(土)に首都大学秋葉原サテライトキャンパスにおいて第17回秋葉原微分幾何セミナーを開催した.
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今後の研究の推進方策 |
複素旗多様体の二つの実形の交叉とFloerホモロジーの研究においては,二つの実旗多様体を定める対合が可換であることを仮定した.このときルート系の拡張概念である対称三対が定まり,これにより実形の交叉の構造を詳しく記述することができた.二つの対合が非可換である場合の,実形の交叉を調べ,さらにFloerホモロジーについても研究を行う計画である.この研究は非可換Hermann作用に関わる様々な問題にも応用が期待される.これまでの研究において,コンパクト対称空間において,可換なHermann作用の軌道として与えられる等質部分多様体の二重調和性を調べた.この研究をもとに非可換Hermann作用の軌道として与えられる等質部分多様体の二重調和性に関する研究を進める計画である. 複素旗多様体にはk対称空間の構造を用いて対蹠集合を定義することができ,極大対蹠集合に対してWeyl群の軌道という特徴付けが得られた.特に,コンパクトHermite対称空間の場合はChen-Naganoが定義した対蹠集合と一致する.この研究結果をもとに,より一般の等質空間のクラスへの対蹠集合の概念の拡張に関する研究を進める.さらに,Chen-Naganoによるコンパクト対称空間の対蹠集合の理論の拡張を目指す. 秋葉原微分幾何セミナーおよび研究集会「部分多様体論・湯沢2018」を開催する計画である.これらのセミナー・研究集会において関連する研究者たちと議論と情報交換を行い,研究課題を推進する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年9月に韓国ソウルにあるKorea Institute for Advanced Study (KIAS) を訪問した際,研究所の宿泊施設を提供していただいたため,科研費から宿泊費を支出する必要がなくなった.繰り越した研究費は2018年度の海外出張旅費に充当する計画である.
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