研究課題/領域番号 |
17K05223
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
酒井 高司 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (30381445)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 対称空間 / 等質空間 / 対蹠集合 / 対称対 |
研究実績の概要 |
対称空間は微分幾何学における重要な対象として古くから精緻な研究が行われており,対称空間の一般化について現在では様々な観点から研究が進められている.1981年にLutzは対称空間の拡張として,各点において有限アーベル群Γと同型になるような対称変換群をもつ多様体としてΓ対称空間を定義した.さらに,GozeとRemmはΓ対称対の概念を導入し,Γ対称対から等質なΓ対称空間を構成する方法を与えた.我々はΓ対称対を用いて,R空間上に定まるΓ対称空間の構造を考え,ある種の自然な方法により,ΓがZ_2の冪であるようなΓ対称空間の構造が定まるための必要十分条件を制限ルート系の条件として与えた.これにより,自然な方法によりΓ対称空間の構造が定まる既約R空間の分類を与えた.特に,Γ=Z_2の場合は,我々が与えた自然なΓ対称空間の構造をもつR空間は対称R空間になる. 1988年にChen-Naganoは,コンパクト対称空間において点対称によって互いに固定されるような点の集合として対蹠集合の概念を導入した.コンパクト対称空間の対蹠集合は有限集合となり,対蹠集合の元の個数の上限として2-numberと呼ばれる幾何学的不変量が定義される.対蹠集合の定義は自然にΓ対称空間に対して延長される.我々が導入したR空間上に定まる自然なΓ対称空間の構造に関する対蹠集合について調べ,極大対蹠集合がWeyl群の軌道として与えられることを示した.さらにこれから,自然なΓ対称空間の構造の極大対蹠集合の合同類は一意的であることを示し,さらに対蹠集合の元の個数の上限はR空間のZ_2係数ホモロジーの次元と一致することを示した.これらの結果は,対称R空間の極大対蹠集合に関する田中-田崎の結果および2-numberに関する竹内の結果の拡張となる.本研究はPeter Quast氏(アウグスブルク大学)との共同研究による.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年4月から9月までアウグスブルク大学(ドイツ)に研究滞在し,Peter Quast氏らと等質空間上のΓ対称空間の構造に関する共同研究を行った.対称R空間の拡張となるような,自然なΓ対称空間の構造をもつR空間を決定することができた.さらに,この自然なΓ対称空間の構造に関する極大対蹠集合の構造を明らかにした.研究滞在中に執筆したQuast氏との共著論文 "Natural Γ-symmetric structures on R-spaces" が Journal de Mathematiques Pures et Appliquees に掲載受理された.さらに,この共同研究の結果に関して,2020年3月に日本数学会2020年度年会(開催中止)において学会発表を行い,2020年2月に大阪市立大学で開催されたThe 18th OCAMI-RIRCM Joint Differential Geometry Workshop on Differential Geometry of Submanifolds in Symmetric Spaces and Related Problemsにおいて講演を行った. ドイツ滞在中にアウグスブルク大学をはじめ,ミュンヘン大学,シュトゥットガルト大学,オート・アルザス大学(ミュルーズ)においてセミナー講演を行い,各大学の研究者らとディスカッションを行い,研究交流を行った. 2019年6月に北京師範大学(中国)において開催されたWorkshop on the Isoparametric Theoryに参加し,Toward classification of biharmonic homogeneous hypersurfaces in compact symmetric spacesというタイトルで講演を行った. 本研究課題により2019年11月28日(木)から11月30日(土)にかけて研究集会「部分多様体論・湯沢2019」を開催した.この研究集会においてR空間上のΓ対称空間の構造に関して講演を行った.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題において等質空間に入るΓ対称空間の構造について研究を進める計画である.これまでの研究で,R空間上に定まる自然なΓ対称空間の構造について調べた.R空間をはじめとした等質空間には,この他にも多様な対称性を持つものがある.これらのΓ対称空間の構造について具体的に詳細な研究を行う計画である.また,対称R空間は外的対称空間としての顕著な特徴付けをもち,我々が研究を行った自然なΓ対称空間の構造をもつR空間は外的対称空間の一般化と見ることができる.この外的対称空間の一般化概念に関して研究を行う.近年,大野晋司氏(日本大学)との研究において,Γ対称空間のさらなる拡張として一般化されたs多様体の定義を与えた.この一般化されたs多様体の基礎理論の研究を進める計画である.古典的な対称空間の理論および正則s多様体の理論の一般化されたs多様体の場合への拡張を考える.さらに,Γ対称空間および一般化されたs多様体について,適切な設定の下での分類問題を検討する. Γ対称空間および一般化されたs多様体の極地と極大対蹠集合の構造に関して研究を行う計画である.Γ対称対から等質なΓ対称空間が得られる.特に,可換なコンパクト対称対の組からΓがZ_2の冪であるようなΓ対称空間が得られる.これらのΓ対称空間の対蹠集合について詳しい研究を行う.また,群Γが非可換群である場合の具体例の構成,およびそれらの極大対蹠集合を具体的に調べる.さらに,Γ対称空間および一般化されたs多様体の対蹠数の幾何学的意味について研究を行い,極大対蹠集合とトポロジーの関係を明らかにする. 複素旗多様体の実形の交叉と対蹠集合に関する共同研究を進め,共著論文を完成させる. 2020年度に秋葉原微分幾何セミナーを開催する計画である.このセミナーにおいて関連する研究者たちと議論と情報交換を行い,研究課題を推進する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年1月に米コロラド州デンバーにて開催されたAMS-MMA Joint Mathematics Meetingに参加し,Special Session on Differential Geometry and Global Analysis, Honoring the Memory of Tadashi Naganoにおいて講演を行う予定であったが,健康上の理由で,国際学会への参加を取りやめた.この海外出張キャンセルのため,予算計画に変更が生じた.また,新型コロナウイルスの影響により,大阪市立大学国際学術シンポジウムなど年度末に参加を予定していたいくつかの学会・研究集会が開催中止となり,国内出張費に残額が生じた.大阪市立大学国際学術シンポジウムは2020年度に延期となった.このため本研究課題の研究期間を2020年度まで延長し,学会・研究集会に参加するための出張旅費として予算を使用する.また,2019年度は秋葉原微分幾何セミナーを開催することができなかったため,2020年度に開催する計画である.
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