研究課題/領域番号 |
17K05230
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
長友 康行 明治大学, 理工学部, 専任教授 (10266075)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ゲージ理論 / ベクトル束 / アインシュタイン・エルミート計量 / 正則写像 / 剛性定理 |
研究実績の概要 |
今年度は、Calabiの剛性定理の一般化に成功した。 Calabiの剛性定理では、ケーラー多様体から複素射影空間への正則等長写像の剛性が与えられている。問題の写像が正則等長であることをベクトル束を使い、次の様に同値な条件に置きかえる。複素射影空間上の次数1の直線束には、射影空間上のFubini-Study計量を定義する時点においてHermite計量が与えられるので、正則写像による直線束の引き戻し束も計量を持つ正則束となる。そこで、その計量がEinstein-Hermite計量であるかどうかを問うことに意味があるが、Einstein-Hermite計量であるならば、その正則写像をEinstein-Hermite写像と呼ぶことにする。写像が定数倍を除いて正則等長であることと、Einstein-Hermite写像であることが同値となる。すると、複素射影空間上の次数1の直線束が普遍商束であることから、複素グラスマン多様体に関しても普遍商束を考えることにより、ケーラー多様体から複素グラスマン多様体への正則写像に対しても、Einstein-Hermite写像を定義することが可能となる。ここで、複素グラスマン多様体においても、そのFubini-Study計量を定義する時点において、普遍商束にHermite計量が導入されることに注意する。 このとき、この一般化されたEinstein-Hermite写像に対しても剛性が成り立つことが証明できた。また、写像に対するゲージ条件を定義しEinstein-Hermite性に置き換えることにより、この一般化された剛性定理をさらに一般化することにも成功した。 この結果、複素射影空間から複素グラスマン多様体へのあるクラスの正則同変写像の分類や、ユニタリー群を固定部分群とするコンパクトエルミート対称空間から複素グラスマン多様体への正則同変写像の分類にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高橋恒郎の定理のベクトル束を利用した一般化に端を発したdo Carmo-Wallachの理論の一般化にはすでに成功したので、リーマン多様体からFubini-Study計量を持つグラスマン多様体への調和写像に関しては、これらの理論の具体的な例への応用も含めて満足な結果が多数得られた。 しかし、本理論の動機づけとなった正則ベクトル束の安定性とよい計量の存在、および Calabiの剛性定理へのフィードバックにはまだ多くの困難があると思われた。特にCalabiの剛性定理は調和写像の特殊で美しい例である正則写像の場合に関する定理であり、その正則写像のターゲットは複素射影空間であった。高橋の定理の時もそうであったが、これらの定理が長期間にわたって一般化されなかった理由として、ターゲットとなる多様体が階数1の対称空間であることが挙げられる。ベクトル束の問題として捉えても、階数1のベクトル束と階数が2以上のベクトル束では理論が大きく異なる。グラスマン多様体では対称空間としての階数とベクトル束としての階数は普遍商束を考えることにより直接つながる概念である。このような状況では、一般的な結果はもとより、個々の具体的な研究においても成果を出すのは困難であると計画段階では予想していた。そのため、やや具体例に重きを置いた研究計画であった。 しかし、ベクトル束には多くの関連するベクトル束、ファイバー束を考察することが可能であり、そのうち射影束を利用し、さらに一般化されたdo Carmo-Wallach理論を適用することにより、Calabiの剛性定理の一般化が得られたことは研究計画を大きく超えるものと考えられる。その方法も当初は予想しなかったものである。 また、正則等長写像にこだわっていては剛性定理の一般化は不可能であり、それに代わる概念を提出できたことも計画を超えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、高橋恒郎の定理の一般化、do Carmo-Wallachの理論の一般化を推進していく予定である。 また、正則写像に関するCalabiの剛性定理の一般化から得られるであろう結果にも関心を払っていきたい。例えば、コンパクトエルミート対称空間から複素グラスマン多様体への正則同変写像の分類などは本研究課題の具体的な成果を与える点においてよい研究目標であると思われる。 これと並行して同じ定義域、同じ終域をもつ(同変)調和写像についても研究を進め、どの程度の類似性や違いがあるのかを追求していく予定である。ただし、手法は異なるので新しい方法を生み出していく必要がある。この点に関しては研究がどの程度進められるのか未知数ではある。 また、正則写像に戻ると向き付けられた2次元の実部分空間のなすグラスマン多様体はケーラー構造を持つので、このグラスマン多様体を終域とするEinstein-Hermite写像の性質を研究する予定である。この場合には本研究の前段階における研究で得られた具体例において、すでに剛性定理が成り立たないことが示されているので、複素グラスマン多様体とは相当、様相が異なっているので興味深い。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者が久留米高専におり、研究打ち合わせを頻繁に行ってきたが、共同研究者の体調が思わしくないため、打ち合わせを控えたことによる。また校務が年度初めの予想を大きく上回ったため、旅費に関する予定が予想と異なってしまったことにもよる。最後にコロナ禍により、出張見合わせが生じたことも原因である。今後も九州大学や久留米高専における共同研究者や海外の共同研究者たちとの研究打ち合わせを行いたいと考えている。
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