今年度は、グラスマン多様体への調和写像に関する「高橋の定理の一般化」を基礎とした調和写像の変形を記述する「do Carmo-Wallach理論の一般化」を適用することにより、複素射影空間および複素ベクトル空間内の2次元部分空間のなす複素グラスマン多様体から複素射影空間内の2次超曲面への正則等長写像に関するモジュライ空間を求めることに成功し、2編の論文を作成し、投稿した。 前者に関しては、Geometriae Deticata誌に掲載受理された。2次超曲面は実グラスマン多様体とみなせることから、上記理論の適用が可能となり、モジュライ問題は、複素射影空間上の直線束が等質ベクトル束であることから、複素射影空間の正則等長変換群である特殊ユニタリー群の表現論の問題に帰着される。しかし、すでに定義域が複素射影直線の時に議論を完成していたので、この結果とYoung図形を用いて、結果に到達できた。 後者の定義域が複素グラスマン多様体であるときには、たとえ議論が特殊ユニタリー群の表現論の問題に帰着され、必要とされるテンソル積表現の既約分解が可能であっても、「do Carmo-Wallach理論の一般化」から要求される対称積表現の既約分解を得るためには更なる代数的議論が必要となる。ここで、引き続き代数的議論を行うことも可能であろうが、幾何学的に見通しがよいとは言えないので、再度幾何学的観点から議論を見直した。すると、複素グラスマン多様体上の直線束が問題なので、複素グラスマン多様体の正則等長変換群の固定部分群の中心と言われる部分群の作用が本質的であることが理解できた。なお、この新たな議論は前者の場合にも適用可能であり、さらなる一般化が期待される。 本研究により、ベクトル束の微分幾何学がグラスマン多様体への写像の微分幾何学には欠かせないものであることが、豊富な結果により示されたと思われる。
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